山田詠美『晩年の子供』
~講談社文庫、1994年~
表題作を含む8編の作品が収録された短編集です。
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「晩年の子供」親戚の家で、犬に手をかまれた直後、狂犬病のことを知った「私」は、それから、死を意識しながら暮らし始めます。「晩年」を意識した10歳の頃の思い出。
「堤防」小学生の頃、旅行先で堤防から落ちたとき、「私」は運命に逆らわなかっただけだった。それからも、運命に逆らわず、「自分で何かする」ことはせずに生きていたはずだったが、高校の頃、友人との出来事で、なにかが変わり始め……。
「花火」奔放に生きる姉を心配する母から、姉の様子を見てくるよう言われた「私」は、彼女のもとを訪れる。そして、妻のいる男と付き合っている姉に不信感を抱きながらも、性と愛について考えさせられることとなる。
「桔梗」古い家に住んでいた「私」は、隣家に住む女性に惹かれていた。女性から連想し、庭の桔梗のつぼみが開くのを見届けたいと思っていた「私」だが。
「海の方の子」親の都合で転校の多い「私」は、どこでも人気者になるすべを身に着けていた。しかし、ある田舎で出会った海の方に住む男の子は、決して心を開こうとしません。クラスメートからも距離を置かれる彼に近づき、一緒に帰ったある日の出来事とその後を描きます。
「迷子」喧嘩の多い両親が当たり前だった「私」は、隣家の友達と過ごし、両親にもいろいろあることに気付く。ある日、隣家にとつぜん赤ちゃんが増えた。数年後、その後が迷子になってしまった日を描く物語。
「蝉」蝉のおなかを割って、中に何も入っていないことを知った「私」。私には弟ができ、そのことを学校の友達にからかわれ、弟にもひどく当たってしまい…。
「ひよこの眼」転校生の男子の眼に惹かれ、ずっと彼を見ていた「私」。恋心ではなかったはずなのに、クラスメートからも公認のカップルのようになってしまう。懐かしく感じたあの眼は、どこで見たのか。
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すべての物語が、小学生から大学生の女性の一人称で語られます(少女時代を回想する物語も多いですが、現在の年齢は描かれていません)。
この中で特に好みだったのは「堤防」、「海の方の子」、「ひよこの眼」の3編。「堤防」では、主人公が2回、人生について父と語る(語ろうとする)シーンが描かれるのですが、2回目が秀逸。「海の方の子」と「ひよこの眼」は、転校(前者では主人公、後者では男子)、主人公と男子の交流、そして悲しみが描かれ、共通するものも感じますが、その中でも二人のやり取りに考えさせられるものがありました。
こちらも20年くらい(以上?)前に一度読んでいて、久々の再読だったので、一部のシーンは覚えていて(やはり印象的だったのでしょうね)、それも含めて味わいながら読みました。
(2022.12.25読了)
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