ヴァンバ(池上俊一訳)『ジャン・ブラスカの日記』
~平凡社ライブラリー、2008年~
(Vamba, Il giornalino di Gian Burrasca, Giunti Editore, 1990)
著者のヴァンバ(本名ルイジ・ベルテッリ、1858-1920)は、ジャーナリストなどを経て、子供のための文学を志し、また、子供たちも参加できる『日曜新聞』という新聞を発刊・運営した人物です。本書も、日曜新聞に1907-1908年に連載されていた小説とのこと。
訳者は著名な西洋中世史学者で、本ブログでもその著書をいくつも紹介しています(西洋史関連(邦語文献)参照。)。私は本書を手に取ったきっかけは池上先生の訳書だからですが、物語として抜群に面白い作品でした。
ジャン・ブラスカ(台風みたいな悪ガキ・ジャン)とあだ名されるジャンニーノ・ストッパーニは、9歳の誕生日に日記をプレゼントしてもらいます。イタズラ好きのジャンは、この日記に、イタズラの経緯や騒動などを書き留めていきます。
冒頭からイタズラの連続で、プレゼントされたばかりの日記に、お姉さんが書いた日記から、お姉さんに言い寄っている男性についての思い(嫌い)を書き写します。直後、当の男性がやってきて、ジャンの日記を目にとめ、しかもその部分を自ら音読する…というところから始まります。ジャンの3人のお姉さんも両親も、親族もジャンのイタズラに振り回され、とうとう寄宿学校に入れられるまでが、大きな第一部となります。思わず笑ってしまうようなイタズラも満載です。
第二部は、寄宿学校で、大人たちの悪事を仲間とともに暴き、やっつけていくという筋書きで、少し雰囲気は変わりますが、こちらも痛快で面白かったです。
池上先生も指摘していらっしゃるように、ずるい大人への批判という視点が作品の根底にあります。イタズラが、自分にとって都合が悪い結果になればジャンをののしり、都合が良い結果になれば褒めたり父親に告げ口しなかったり…。ジャンはかなりあくどいこともしますが、基本的には良かれと思ってしていることばかりで、大人の対応が納得できないのですね。
本書の底本は上記のとおり1990年刊行の作品ですが、初出は(こちらも上述のとおり)1907-1908年の『日曜新聞』の連載です。単行本としては1912年に出版され、「その後も数限りなく再版されつづけている」(444頁)とのことです。また、現在でも、「いたずらっ子のことを叱責するのに、『このジャン・ブラスカめがっ!』と親が怒鳴ることもある」(455頁)とのことで、イタリア人に親しまれている作品のようです。
440頁近くある作品自体が面白いのはもちろん、30頁以上ある池上先生による解説も、作品の同時代の背景などが論じられていて、興味深いです。
購入してからしばらく読めていませんでしたが、これは面白かったです。良い読書体験でした。
(2023.06.06読了)
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