ウィーダ(村岡花子訳)『フランダースの犬』
~新潮文庫、1989年改版~
(Oui’da, A dog of Flanders)
ウィーダ(本名ルイズ・ド・ラ・ラメー、1839-1908)は、イギリス生まれで、フィレンツェに移住した作家。一時人気の絶頂に達するも、「晩年はその声価が落ち……窮乏のうちに生涯の幕を閉じた」(村岡花子さんによる解説。163頁)とのことで、波乱万丈の人生だったようです。
本書は、訳者の村岡さんが感銘を受けた児童文学作品2編が収録された短編集です。
「フランダースの犬」酒飲みで乱暴な男のもとで残酷な労役に服してきた犬のパトラシエは、ある日、力尽きて倒れてしまいます。そこに通りがかった優しいジェハン・ダースじいさんと幼いネロに助けられ、元気を取り戻します。その後は、ダースじいさんと、そしてネロが長じてからはネロと、牛乳をまちに届ける仕事の手伝いをするようになります。そしてときは経ち…。教会のルーベンスの絵を見たいとあこがれ続け、自らも絵描きを志したネロと、老犬パトラシエの物語です。
あまりにも有名な作品ですが、原作を読んだのは今回が初という…。
パトラシアの視点で描かれるシーンが多く、よけいにダースじいさんやネロの優しさが伝わってきます。パトラシアは2人のしごとを手伝うようになりますが、それも自らすすんで、恩返しをしたくて手伝おうとし、そしてそれをとうとう受け入れる2人のやり取りも素敵です。
「ニューベルンゲンのストーブ」10人兄弟のオーガストは、貧しいながらも、家にある立派なストーブを大切にしていました。しかしある日、借金返済に苦しんだ父親から、ストーブを売ったと聞き、激怒します。商人たちがストーブを取りに来たのち、オーガストは彼らを追いかけ、ストーブの中に隠れて旅をします。わずかな食糧もなきなりそうになり、のどの渇きに苦しむオーガストがたどりついたその先は…。
こちらも好みの物語でした。優しいお姉さんが怖くなるほどにオーガストが激怒するところや、持ち運ばれ、揺れるストーブの中で耐える場面など、印象的なシーンが多いです。なにより、末尾の一文が印象的です。
良い読書体験でした。
(2023.06.13読了)
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