Valerie I. J. Flint, Ideas in the Medieval West. Texts and Their Contexts, London and New York, Routledge, 1988
Valiorum Collected Studiesの1冊。初出論文がページ番号そのままに再録されているシリーズで、本ブログでは以前に次を紹介したことがあります。
・Louis-Jacques Bataillon, La predication au XIIIe siecle en France et Italie, Variorum, 1993
本書には、フリントの主要な研究対象だった神学者ホノリウス・アウグストドゥネンシスに関する諸論考を中心に、14の論文が収録されています。
本書の構成は次のとおりです。(拙訳)
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[第1部]再考された文脈
I.「ラン学派」―ひとつの再考
II.ジェフリ・オヴ・モンマスの『ブリタニアの諸王の歴史』―パロディとその目的。ひとつの示唆(*1)
III.いくつかの初期中世の概論「事物の本性についてDe Natura Rerum」の文脈についての考察
IV.初期中世と啓蒙主義の時代の怪物と既知の世界の反対側の場所Antipodes
[第2部]ホノリウス・アウグストドゥネンシス
V.ホノリウス・アウグストドゥネンシスの経歴―いくつかの新しい証拠
VI.アウグスブルクのヘンリクスとホノリウス・アウグストドゥネンシス―彼らは同一人物か
VII.ホノリウス・アウグストドゥネンシスの著作の年代学
VIII.12世紀イングランド写本からのホノリウス・アウグストドゥネンシスの『手引き』オリジナルテクスト
IX.ホノリウス・アウグストドゥネンシスの”Liber Hermetis Mercurii Triplicis de VI rerum principiis”と”Imago Mundi”
X.ホノリウス・アウグストドゥネンシスの『手引き』と後期11世紀イングランドにおける改革―ホノリウス・アウグストドゥネンシスの『手引き』の典拠
XI.ホノリウス・アウグストドゥネンシスによる雅歌への注解
XII.ホノリウス・アウグストドゥネンシスの著作の位置づけと目的
XIII.12世紀における世界史―ホノリウス・アウグストドゥネンシスの『世界像』
XIV.12世紀における反ユダヤ人文学と態度
ホノリウス・アウグストドゥネンシス―参考文献補遺
索引1.人名・地名索引
索引2.引用写本索引
(*1)人名・書名は有光秀行『中世ブリテン諸島史研究―ネイション意識の諸相―』刀水書房、2013年、93頁の表記によりました。
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第1部は少しのみ、第2部もほとんどざっと目を通した程度ですが、簡単にメモ。
第3論文は、初期中世の「事物の本性について」の著作として、セヴィーリャのイシドルス、ベーダ、ラバヌス・マウルスの三者の著作を取り上げ、その概要、共通点や相違点、特徴を描きます。
第2部は、ホノリウス・アウグストドゥネンシスに関する諸論考を集めています。綿密な写本分析から、作品の執筆年代を同定していったり、その生涯がほとんど知られていないホノリウスの活躍の場を推定したりという論考が収録されています。「アウグストドゥネンシス」の名がどの地名を意味するのか不明とされていますが、フリントはアウグスブルク説をとっているように読めました。また、彼はしばしば「オータンのホノリウス」とされることもあります(ありました)が、オータンとの関係は現在ではほぼ否定されており、フリントもその立場をとります。
自分の専門との関係でホノリウスについて関心を持ちながら、きちんと論文を読んだことがなかったので、この度その著作や経歴に関する諸論考にまとめて目を通すことができて良かったです。
(2023.06.25読了)
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