北山猛邦『密室から黒猫を取り出す方法 名探偵音野順の事件簿』
~創元推理文庫、2021年~
名探偵音野順シリーズの短編集第2弾です。
探偵の音野さんと、作家で音野さんの助手でもある白瀬さんについては、第1弾『踊るジョーカー 名探偵音野順の事件簿』の記事をご参照ください。
さて本書には、第1弾同様に5編の短編が収録されています。
それでは、簡単にそれぞれの内容紹介と感想を。
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「密室から黒猫を取り出す方法」ホテルで、憎い上司を密室状況で自殺にみせかけることに成功した男。ところが、仕掛けの最後のところで、部屋に黒猫が入り込んでしまい、そのまま密室が完成してしまう。
「人喰いテレビ」雪の上で、上半身裸で殺されていた男は、その前日、ロッジの中で、テレビに食われるような状況だったのを目撃されていた。そのロッジでは、過去にも人が食われるような状況が目撃されていて…。
「音楽は凶器じゃない」音楽室で、教師が殺され、生徒もケガを負っていた。犯人は窓から逃げたと思われたが、疑問点も多い。一方、ほぼ密室状況だったその現場からは、凶器が発見されなかった。音野がたどり着く真相とは。
「停電から夜明けまで」血のつながらない強欲な父を殺そうと計画する双子の兄弟。しかし、計画を実行しようとした停電した夜、思わぬ客が訪れ、事態は意外な方向へ…。
「クローズド・キャンドル」白瀬が気になっていた広い敷地の中にある家で、大量のろうそくが並べられた密室状況の中で首吊り事件があった。名探偵を名乗る男は、自殺ではなく殺人だと言い張り、遺族に真相を明かすため高額な金額を要求していた。それを措置するため、白瀬は音野の協力を求めるが…。
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これは面白かったです。
物語は基本的に白瀬さんの一人称で進みますが、地の文でも会話でもユーモアにあふれていて大好きです。二人ともルールをよく知らないまま進めるチェスや、「絶対に負けられない戦いだ」など、本当に楽しく読み進めました。
表題作は殺人の密室のほうは冒頭から描かれますが、主眼は密室状況から消えた猫の謎で、最後まで興味は尽きません。「人喰いテレビ」はタイトルから引き込まれますね。凶器をめぐる第3話はややホラーなテイストもありますが、好みの謎解きでした。第4話はかなりの異色作。第5話は奇妙な密室状況という魅力的な謎に加えて、名探偵を名乗る男との戦いも目が離せません。
本書ではまた、青崎有吾さんによる解説も素敵でした。解説が青崎さんというだけで嬉しかったのですが、そのタイトルだけで少しぐっときて、また末尾あたりでは涙が…。疲れているのでしょうか…。
全体を通してとても楽しめた一冊です。良い読書体験でした。
(2023.08.29読了)
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