豊田武『苗字の歴史』
~中公新書、1971年~
豊田武氏(1910-1980。没年はWikipedia参照)は日本中世史専門の歴史学者。
「はじめに」によれば、本書は、その研究『武士団と村落』の副産物として書かれた著作とのことで、単に様々な苗字の紹介に終わるのではなく、その歴史的背景や意義にもふれている、興味深い1冊です。
本書の構成は次のとおりです。
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はじめに
1 苗字の起り
2 名字のいろいろ
3 氏姓制に源をもつもの
4 地方豪族の成長と名字
5 初期の武士団と名字・紋章
6 武士の移住と名字の伝播
7 苗字の地理的分布
8 苗字の固定と偽作
9 身分制度の確立と庶民の苗字
10 苗字の公称
結 苗字研究の意義
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第1章は、大化前代から、苗字(名字)の歴史を概観し、源平争乱の頃にはほぼ定着、名字を用いる同族団が誕生したと述べます。
第2章は、官職、地名、動植物などの名字を概観。
第3章は古代の氏姓制に源をもつ名字の概観。
第4章は源平その他注目すべき地方豪族の名字とその展開を辿ります。
第5章も標題どおりですが、様々な家紋が例示されていて興味深いです(66-67頁)。
第6章は、地域別に、武士団の移住とそれに伴う苗字の伝播を紹介。
第7章は、地域ごとに特徴的な(他地方に比べて多いなどの)名字を見ていきます。
第8章は、惣領家が名字を独占し、庶子家がその名字を名乗ることを禁じたり、領主層が庶民には名字を名乗らせないようにしようとしていたりしていたことなど、興味深い指摘があります。
第9章も、興味深く、第8章でも触れたように庶民は名字を名乗らないようされていましたが、私的には苗字をもつ者が少なくなかったといいます。1783年、あるお寺の再建の奉加帳には、名前だけで苗字のない寄附者は一人もいない(=全員苗字があった)といいます。
第10章は明治時代以降の名字制度について。以前紹介した遠藤正敬『犬神家の戸籍―「血」と「家」の近代日本―』青土社、2021年の紹介でも触れましたが、本書でも、「維新前まで、女は生家の氏を婚後も称していた」(152頁)こと、そして「家父長権の確立がねらい」で、「[明治]31年の民法・戸籍法で、妻はとついだ家の姓を名乗ることになった」(153頁)が指摘されます。
結びでは、世界の名字の状況や、わが国での苗字研究の意義が紹介されます。
以上、ごく簡単なメモになりましたが、多くの名字の紹介があり、やや古い書籍ではありますが、興味深く読みました。
(2024.01.19読了)
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