青崎有吾『11文字の檻』
~創元推理文庫、2022年~
青崎有吾さんデビュー10周年を記念に編まれた短編集です。
ショートショートも含め、バラエティ豊かな8編の作品が収録されています。
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「加速してゆく」福知山線事故が起こったとき、現場写真を撮りに行った新聞社のカメラマン。別の駅で出会った高校生が行動をともにした理由とは。
「噤ヶ森の硝子屋敷」著名な建築家が建てた全面ガラス張りの「硝子屋敷」に併設された宿泊施設を訪れた、社長とその友人たち。しかしビデオによる監視状況の中、社長が殺されてしまい…。
「前髪は空を向いている」高校三年生のあるひとこまを描く。
「your name」ショートショート。探偵が犯人を見抜いた理由とは。
「飽くまで」何事にも飽きっぽく、始めたことを終わらせることに快楽を覚える男が、結婚1年目に取る行動とは。
「クレープまでは終わらせない」謎の生物に地球が襲われる世界。生物に立ち向かう大型ロボットの清掃アルバイトをする2人の日常のひとこまを描く。
「恋澤姉妹」見たり、追ったりする者は消されてしまう、彼女たちを見て生きている人はほとんどいないという「恋澤姉妹」に、会社の上司が殺された―。そう信じたわたしは、姉妹の過去を知る人々から情報を集め始める。
「11文字の檻」「東土帝国」で検閲に引っ掛かり施設に入れられた縋田は、施設のルールに衝撃を受ける。毎日1回、11文字を解答欄の壁に書く。正解なら施設を抜けられる、というのだった。相部屋の飛井とともに、縋田はその「ゲーム」の法則の解明に乗り出していく。
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書下ろしの表題作以外は、テーマ別のアンソロジーに既出の作品が収録されています。たとえば「前髪は空を向いている」は、ある漫画の公式二次創作で、本書冒頭の前書きにも、本作については巻末の「著者による各話解説」を先に読んだほうが良い、とアドバイスされています。いつからか解説を先に読まないことをモットーに読書してきているので、先に本編を読みましたが、なるほど、これは先に解説を読んで前提を理解したほうが良かったかもしれないと思いました。なお、本作をはじめ、いくつかの収録作品はいわゆる「ミステリ」ではありません。
その他興味深かった初出として、「噤ヶ森の硝子屋敷」は、綾辻行人『十角館の殺人』30周年記念で編まれた館ものしばりのアンソロジーに収録された作品とのこと。『ノッキンオン・ロックドドア』とも世界がつながっているそうです。
本書の中で衝撃的だったのは表題作。解答欄以外の壁にメモを書きまくり、毎日1回だけ、解答欄の壁に回答する―という特殊な前提を、無理なく理解させてくれる丁寧な叙述。そして、そこから試行錯誤して縋田さんが法則を解明していくときのぞくぞく感。ほぼノーヒントで11文字のキーワードを探るという「ゲーム」に、はたして縋田さんは勝利できるのか。手に汗握りながら読み進めました。読後は面白すぎ、衝撃的すぎて震えるくらいでした。
青崎さんのバラエティ豊かな物語が読めるのも嬉しいですが、私にはとりわけ「11文字の檻」が読めたのが良かったです。久々にミステリで震えました。
これは面白かったです。良い読書体験でした。
(2024.02.22読了)
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