Carolyn Muessig, The Faces of Women in the Sermons of Jacques de Vitry
Carolyn Muessig, The Faces of Women in the Sermons of Jacques de Vitry, Toronto, Peregrina Publishing, 1999 著者のキャロラン・ムエシックは、読了日にホームページで確認すると、現在、カナダはカルガリー大学の古典・宗教学部のキリスト教思想学科長をつとめていらっしゃるようです。 編著として、本ブログでは次の2冊を紹介したことがあります。・Carolyn Muessig (ed.), Medieval Monastic Preaching, Brill, 1998・Carolyn Muessig (ed.), Precher, Sermon and Audience in the Middle Ages, Brill, 2002 本書は、著者が初期から研究されている、説教師として有名なジャック・ド・ヴィトリ(c.1160-1240)の説教集の中から、女性を扱った説教を抄録・抄訳しているとともに、その内容を分析するという1冊です。 本書の構成は次のとおりです。―――謝辞第1章 序論第2章 『週日・通聖人説教集』第3章 『聖人祝日説教集』と『身分別説教集』第4章 結論―神学と社会的実践巻末注付録:ラテン語テクスト参考文献一覧聖書引用・参照索引一般的事項索引――― ジャックの略歴や説教集の概要を示す序論に、本書の中心となる第2章と第3章が続きます。 第2章は、カタリ派への論駁を意図したと考えられる『週日・通聖人説教集』から、5つの説教の抄訳を示したのち、その注解を行います。ここでは、特に反女性主義的な色調が強いことを強調する一方、敬虔な女性たちの擁護者であったジャックがなぜそのような内容を記したのかという問いを立て、さらに考察を進めます。著者は、同じくカタリ派論駁の意図をもって書かれた『ワニーのマリ伝』(この著作や、マリもその先駆的な一人とみなされる、ベギンという敬虔な女性たちについては、上條敏子『ベギン運動の展開とベギンホフの形成』刀水書房、2001年と国府田武『ベギン運動とブラバントの霊性』創文社、2001年を参照。ブログの記事は初期のためきわめて拙いですが…)との比較をしつつ、ジャックが夫婦の重要性と、女性の「人間性」を強調していたということを指摘します。 第3章は『聖人祝日説教集』からの3つの説教の訳出(1つはごく一部のみ)と『身分別説教集』からベギンについてふれられている1つの説教の抄訳を示したのち、『週日・通聖人説教集』などとの比較も行いながら、その特徴を指摘します。ここでは、純潔性の強調や、説教によっては一般的女性の聖なる理想への模範を提供していることが指摘されるほか、また13世紀後半のベギン向け説教との比較がなされます。 第4章の結論では、ジャックの女性への見方は善悪二元論的ではなく、複雑かつ多様な見方であったことがあらためて提示されます。 一人の聖職者の目を通して、中世の女性たちへのまなざしの多様性を示す興味深い1冊です。(2024.03.03読了)・西洋史関連(洋書)一覧へ