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その夜、俺は晩飯を終えると、さっさとこたつのスイッチを切って布団に入った。こたつが冷えると、わらわらと猫が布団に移動してくる。上に乗られるのには重くてまいったが、二匹布団に入ってきたのは嬉しかった。
ゴロゴロと喉で四重奏をやられるのはうるさいけれど、かわいいし暖かい。俺はホクホクしながら目を瞑った。
しかし、重いせいか、はたまた興奮しているせいか、なかなか寝付けない。しかも、両脇を猫が固めているので、寝返りも打てない。そんな、ある意味拷問のような状態で、やっとうつらうつらし始めた頃、身体がふっと軽くなった。猫が上から下りたのだ。それに感応するように、俺の脇に顔を埋めていた奴らもピクリとして、ゴソゴソ出て行く。
やがて四匹は、申し合わせたように押入れの前に一列に並んだ。そしてそのまま、獲物を狙うかのように頭を低めると、一斉に、
ウゥーーーーーーー
押入れに向かって唸り始めた。白など、早くも身を起こして、シャーッ! と威嚇している。
俺は、ネズミでもいるのだろうかと起き上がり、電気を点けてみた。猫たちの所へ行き、視線の先を追う。
そしてゾッとした。
猫たちは押入れの隙間ではなく、何故か中空を睨んでいた。黄ばんだ襖の真ん中辺りだ。もちろん、そんなところにネズミが浮いているわけもなく……。
「な、何にそんな怒ってるんだよ? 何かの冗談だよな? な?」
俺は一匹一匹の背中を撫で、さすり、宥めて回った。けれど猫たちは俺を完全無視。変わらず中空を睨んでうなりを上げている。そこに敵がいるのだといわんばかりの形相で。みんな目が据わっていて怖い。そして、全員同じとこを見ているのが、そこに何かがいることを証明しているようで、もっと怖い。
俺はソローッと猫たちから離れると、頭から布団を被り、震えながら朝が来るのを待った。猫たちは十分くらいで諦めたように布団に戻ってきたが、連中に暖められても、もう俺の背筋は凍ったままだった。
翌晩、友人が猫を連れて帰ると、俺は礼に貰った六缶パックのビールを持って、隣の部屋の戸を叩いた。猫を食ってみたいと言った隣人の部屋だ。この隣人、俺は先輩と呼んでいるが、別に学校やバイトが同じわけではなく、このアパートの先輩というだけの人である。
その先輩と酒盛りをし、そのままそこで眠ろうとした深夜二時。先輩が突然言った。
「帰んないわけ?」
「帰るの寒いし面倒。も、このまま寝かせてくださいよ」
帰るなんて冗談じゃない。何もない空間を猫が威嚇するような、あんな怖い所に一人でいられるか。
しかし、正直にそんなことを言えば、バカにされる上、よけい怖いことを吹き込まれるに違いない。俺は酔い潰れた振りをして、目を瞑った。
つづく
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