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ところが先輩は、酒臭い口を横になっている俺の耳元に寄せ、背筋の寒くなるような口調で、
「昨日の猫が何か見たか?」
覗いてたんじゃないかと思うくらい、痛いところを突いてくる。思わず「何でわかるんですか!?」と起き上がってしまい、俺は墓穴を掘った。
先輩は、やっぱりなと言って、当然のように何があったか訊いてきた。
「ま、だいたい見当はつくけどな」
訳知り顔で、ニヤリとする。
だったら聞く必要もないだろうに。
しかし、こうなったら言っても言わなくても結果は同じだ。言わなければ、憶測でこんなとこかなと不気味な話を聞かされ、ビビッているところを笑われるのがオチ。それくらいならブチまけて楽になろうと、俺は全部話すことにした。
「それでうちに逃げ込んできたわけか」
先輩はニヤニヤしながら聞いていたが、俺が話し終えると煙草に火をつけて、馬鹿だねぇと呟いた。
「この寒いのに蚊なんて飛んでるわけないし、朝になって押入れの中見てみても、ネズミ一匹いた形跡すらなかったんですよ!? 幽霊じゃなくても気味悪いじゃないですか!」
不気味なことに遭遇すると怖がるよりも喜びそうな先輩に、こんなことを言ったところで理解してもらえるなんて馬鹿なことは思ってはいなかったが、笑うならまだしも、バカにするとは何事か。俺は憤慨して訴えた。
すると先輩は、口から煙を吐きながら、別に信じてないわけではないと言う。
「誰も、枯れ尾花だと言ってるわけじゃないさ。猫はよく視るって言うからな」
「じゃあ、なんで……」
「バカにするのかって?」
先輩はビールの空き缶に煙草の灰を落とすと、俺に視線を合わせてニヤリとした。右に比べ、左の口角を異様に吊り上げた嫌な笑みだ。何を言われるかと身構える俺に、先輩は思わせぶりな溜めを作ってから、口を開いた。
「おまえの部屋の押入れの向こうって、何がある?」
「押入れの向こう?」
俺の部屋はこのアパートの東端で、押入れは部屋の西側についているから……。
「……この部屋、ですか」
「そういうこと」
蒼白になった俺を見て、先輩は満足そうに紫煙を吹き上げた。
9.5.猫 終
'08.4.3(?)
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