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2006年10月24日
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カテゴリ:連載小説

残花抄より妻と愛人の対決を抜粋しました。

 

 胸の動悸がざわざわと鳴って、私は息苦しくってねえ。

 あえぎながら、長橋の奥さんのまえに行きましたよ。

 すると、女の勘なんでしょうね、奥さんもなにごとかと

 私を見据えました。

 私は丁寧に頭をさげましてねえ。

 「本日は奥さんにぜひともお返ししたいお品がございまして、

 こうして場所柄もわきまえませず、まかり越したしだいで

 ございます」

 と、芝居もどきのあいさつをしましたよ。

 「お宅のご主人さまから生前お預かりいたしておりました

 お品でございます。どうぞ、お改めになってくださいまし」

 われながら仰々しいとは思いましが、そう言って風呂敷包み

 にした短刀を差し出したんですよ。

 奥さんは、一瞬とまどった顔をしましたけど、その包みを

 あけてみました。

 「これは、ご丁寧にありがとうございます」

 と言いながら、短刀の鞘を払いました。

 そして、長船吉次をしばらく見ておりましたがねえ。

 次の瞬間、私に刀の切っ先を向けてかざすじゃあ

 ありませんか。

 その時殺気を感じました。

 てっきり切りつけられるかと観念して

 思わず目をつぶってしまいましたわさあ。

 奥さんは私の頭上で空を切ってから、

 やがてなにごともなかったみたいに短刀を鞘に納めて、

 「たしかに主人の愛用いたしておりましたものでございます。

 わざわざお返しいただきありがとうございました。

 主人もこれで成仏できることでございましょう。

 ではこれにて」

 と、まるで古武士の妻のようなあいさつをしてから

 静かに、それも能役者のように摺り足で立ち去って

 しまいましたよ。

 まったく手に汗を握る瞬間でしたわさ。

 これも一種の修羅場にはちがいないですよね。

 

 

 

 






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Last updated  2006年10月24日 16時45分50秒
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