生の不充足感
『離婚』(色川武大著 文春文庫)を読了した。家にあった32年前の文庫本で、家人が買ったものだ。もうすっかり黄ばんじゃっていたが、最後まで読み終えた。表題作は直木賞作品の短編で、他に「四人」「妻の嫁入り」「少女たち」の3つの短編が収められている。「少女たち」が、前の3編の前編にあたるとかで、ちょっと特殊な感じがしたが、全部面白かった。独特の語り口に魅了されて、読み終えてからWikipediaで著者のことを調べたりした。この文庫本の後ろの解説を尾崎秀樹氏が書いていて、読んで考えさせられた。著者は阿佐田哲也の筆名で『麻雀放浪記』を書いたことでも知られるように波瀾に富んだ経歴の持ち主だ。”化けもの”の道と”まとも”の道の分岐点で生きてきたと言える。”化けもの”の道には激しい生の燃焼があるが破滅へゆきつく。”まとも”の道は我慢し、妥協して生きることになり、生への不充足感がつきまとう。この言葉が今の自分の気持ちにピッタリ来た。不充足感の中でいかにバランスを取って生きていくか、それが問題だ。