福島県の妖怪伝承
『47都道府県・妖怪伝承百科』小松和彦・常光徹 監修、香川雅信・飯倉義之 編、丸善出版、2017年 から(佐治靖執筆部分) 青森県の妖怪伝承(2023年07月11日) 岩手県の妖怪伝承(2023年07月12日) 宮城県の妖怪伝承(2023年07月13日) 秋田県の妖怪伝承(2023年07月15日) 山形県の妖怪伝承(2023年07月16日)・アカヒトリ(高目(西会津町)の諏訪神社の森を通りかかると、アカとって食べか、人取って食べか、と鳴く鳥の妖怪)・赤目たら主(長谷堂大尽という長者屋敷の裏手の沼の主。屋敷の火事の消火のため水がなくなり、少女に変身して移った「主沼」も氾濫で流され、「女沼」の主となった。安達町民俗誌。)・安達ヶ原の鬼婆(二本松市安達ヶ原の鬼女。黒塚が墓とされる。仕えた姫の病を治すため、身重の生き肝を求めて奥州に下って「いわて」が、気づかず実の娘と孫を殺したことを悔い、発狂して、旅人を殺す鬼婆になった。ある秋、知らずに棲家に泊った僧祐慶が捕まりそうになった時一心に祈ると天空から如意輪観音が破魔の真弓を射て鬼婆は息絶える。)・奥州会津怪獣の絵図(同名の瓦版風の一紙物に記された妖怪。天明元年夏頃から、会津から出羽国象潟にかけ子どもが失踪する事件が頻発したが、磐梯山の麓塔の沢でも大勢の子がさらわれた。南部大膳太夫様と家臣たちが捜索し、天明2年大筒で仕留めた怪獣は、背丈4尺6寸、ヒキガエルにも似て全身に毛が生えていた。)・大滝丸(悪路王)(坂上田村麻呂に征伐された大滝根山の鬼。伝承は阿武隈高地中央部から西部に分布し、大滝丸と悪路王は同一人物とみなされ、宮城県岩手県の阿弖流為との関連の伝承はない。大滝丸は鬼生田(郡山市)の地獄田で生まれ、大滝根山の達谷の窟・鬼穴に棲みつき仲間と悪事を働いた。他方で、中央権力に敗れ排除された在地豪族の陰も見え隠れする。)・お尻目小僧(尻に目玉そっくりなものが10もある子どもの妖怪。小雨の夕暮れ時に、下柱田(岩瀬村)の跡見塚の山道に出没する。出会った者が着物がよごれると裾をめくってやると、尻を見て驚いている間に、子どもは無言で歩きだし長命寺付近で姿を消した。)・オボ(散らし髪の赤子を抱いた幽霊。乳飲み子を残して亡くなった未練で成仏できず、夜遅く、坂井と八町(金山町)の間の沢道の入り口に現れ、通行人に髪をすく間子守を依頼し、礼を言って消える。また、檜枝岐村ではオボは難産で死んだ女の霊で、あの世でお産をして妖怪になる。)・オンボノヤス、オボノヤス(山中で出会うと白い霧を吹きかけられ道がわからなくなる。)・カシャ猫(大辺山に棲む化け猫。爺様の留守中に、飼い猫が婆様に浄瑠璃を聴かせるが、婆様が約束を破って爺様に話すと、猫が急に婆様を噛み殺し大辺山へ飛んでゆく。その後、長雨や日照りを起こし、葬式があれば屍を喰うなどした。カシャは、葬式や墓から死体を奪う妖怪「火車」と一致する。檜枝岐村ではカシャは野辺送りのときに棺の死体を盗みに来るといい、途中カシャの仕業で棺桶が軽くなったり重くなったりする。)・亀姫(猪苗代城(亀ヶ城)に棲みつく主とされる妖怪で『老媼茶話』に登場する。姫路城の妖姫「おさかべ姫」と並び称される。城代主膳のもとに禿が現れ、「汝、城主にお目見えしていない」というので、「自分の城主は加藤明成だ」と叱ると、禿は「亀姫を知らぬとは汝の天運は尽き命も絶えた」と笑い姿を消す。次の正月元朝、主膳への拝礼の場に新しい棺桶と装具が置かれ、夕には大勢で餅を搗く音がするなど不吉が続き、18日主膳は病気となり20日死去。泉鏡花『天守物語」にも。)・朱の盤(諏方(すわ)神社野境内(会津若松市)に毎晩出没する妖怪。最初若侍か女房の姿で現れ、朱の盤について尋ねると突然「こんな顔か」と恐ろしい顔に変貌する。)・殺生石(伝説上の人物「玉藻の前」が九尾の狐に化身し、正体が見破られた後、下野国那須野ヶ原で毒石「殺生石」になる。これを退治した玄翁和尚は会津の名刹示現寺(喜多方市)の住職を務めた。会津では割れた石の一つは摺上原に落ちて人取石となったとされる。また『新編会津風土記』には、玄翁和尚に済度された殺生石が女の姿で現れ、白狐に化身し降り立った地が慶徳稲荷神社であると記される。)・ダイバ(馬を死なす怪。湖南(郡山市)の湖岸道など決まった場所で、突然馬が狂いだして倒れる。人間には聞こえないが馬に聞こえる声を発し、その声と馬が鳴き合わせると馬は死んでしまう。)・天狗(会津の山間部を中心に分布。志津倉山(三島町)には「狗ひん様」という天狗が墨、山奥から「狗ひん様の空木かえし」という音を出す。川桁(猪苗代町)では、縄張りを決めるための天狗の相撲の足音。松本(天栄村)の大天狗は、脱糞して不毛の地を肥沃な土地にしたという。また、「天狗の石合戦」は伊南川を挟み男女の天狗が仲違いして石を投げ合う説話。)・沼御前(会津の金山谷(金山町)の沼沢沼の奥底に棲む妖怪。長い髪の若い女性の姿をしているが、正体は沼沢沼の主である大蛇。)・猫魔ヶ岳の化け猫(猫魔ヶ岳の山名の由来。ネコマタ(猫又)とも。人の言葉を話す猫が、婆様が固く口止めされた約束を破ると、たちまち大きな化け猫に変身し、婆様をくわえて猫魔ヶ岳に飛んで行った。)・磐梯山の手長足長(磐梯山に棲む巨人。手足の長い一人の説と、足長の夫と手長の妻の夫婦の説がある。磐梯山に腰を掛け、手足は会津盆地や猪苗代湖の対岸湖南にとどき、太陽を遮り猪苗代湖の水を撒いては凶作を招いた。ある時、弘法大師と問答して胡麻(豆)粒ほどにされ印籠に封じ込められた。)・磐梯山の魔魅(まみ)(磐梯山が病悩山(びょうのうさん)と呼ばれていたころ棲んでいた妖怪。大同元年の大爆発で溺死者を多く出したのは魔魅の仕業とされる。)・真っ黒の大入道(古い大狢が化身した妖怪。背丈7尺ほどあり姿は真っ黒。三本杉の清水で水汲みする姿を見た柴崎又左衛門が一刀にすると、姿は消え、しばらくして八ヶ森で大きな古狢の死骸がみつかった。)・山姥のかもじ(髢。髪を結う際に地毛が少ない部分を補う付け毛のこと)(山姥から奪い取った髪の毛の一部を所有すると、山姥の祟りや障りを受ける。かもじを返さないことへの怨念であり、家族にも災厄が及ぶ。また、かもじを見ると働きたくなくなるとも。)■関連する過去の記事(他にも多数あります。フリーページの記事リストをご覧ください。) 民俗信仰と東北(2022年6月4日)(安珍・清姫伝説、安達ヶ原の黒塚)