ラムサール条約登録湿地の志津川湾
志津川湾は、歌津、志津川、戸倉を含む南三陸町の海全体。太平洋に直接面して強く影響を受けるとともに、深い湾の奥は穏やかで、世界的に貴重な自然環境が広がっている。志津川湾には、北海道沖を通過して三陸沖で東に向きを変える親潮(寒流)と、房総半島沖で蛇行する黒潮(暖流)の支流が到達する。さらに、対馬海流が日本海から津軽海峡を抜けて南下する津軽暖流も混ざり合い、多様性豊かな貴重な海となっている。昔から漁業はさかんで、「西の明石、東の志津川」と味の良さをうたわれるタコは、イシャリという道具を船から垂らしてとる。箱メガネをのぞいて長い竿の先のカギでとるウニ、アワビ。明治から始まった養殖漁業はノリが皮切りだったが、昭和30年代からワカメ養殖が始まる。マガキも主要な産品で、2017年戸倉地区のカキ養殖がASC認証取得。ホタテ、ホヤ、ワカメ。また、ギンザケは志津川湾が養殖発祥の地だ。ラムサール条約(正式名称は、特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)は、保全・再生と賢明な利用(ワイズユース)を目的とし、そのための交流・学習(CEPA)を進めることを大切とする。2018年10月18日、志津川湾が登録され、23日にドバイで開催された条約締約国会議で認定証が授与された。現在、日本には登録された湿地が52か所ある。宮城県では、伊豆沼・内沼、蕪栗沼・周辺水田、化女沼が登録されている。藻場(海藻の森や海草の草原のこと)は、多くの生き物の隠れ家や揺りかごとなり、また葉に住む小生物と一緒に海をきれいにし、生態系で大切な役割を果たすが、志津川湾では、200種以上の海藻と5種の海草が確認されている。コンブ場、アラメ場、ガラモ場、アマモ場など多様な藻場があり、マコンブとアラメの双方が見られる大変貴重な海である。環境省は国内の重要な自然環境を1000か所ほど選んで調査している(モニタリング1000)。志津川湾は全国で6か所の藻場サイトに選ばれている。毎年6月、椿島付近で生育状況を調査。南三陸ネイチャーセンター(南三陸町自然環境活用センター)では、2008年から調査に関わり、震災後、地盤沈下の影響で藻場が岸寄りにシフトしたことが明らかになった。志津川湾は、環境省が選定する「日本の重要湿地500」にも選定されている。また、細浦と折立海岸の干潟は、「宮城県の重要な干潟」に選定され、干潟からは多くの希少動物が確認されている。八幡川河口の松原海岸は、潮干狩りなどが楽しめる干潟だったが、50年ほど前、チリ地震津波の後に防潮堤が作られ、松原公園となった。2011年の東日本大震災津波で防潮堤が壊され、ふたたび干潟や磯を含む海岸に戻った。水鳥では、コクガンの重要な越冬地になっているほか、冬にやってくる渡り鳥は、マガモ、ヒドリガモ、オオガガモ、コガモ、シノリガモ、スズガモ、ホオジロガモ、クロガモ、オオバン。猛禽類では、ミサゴ、オオワシ、オジロワシ。■南三陸町発行の冊子「ラムサール条約登録湿地 志津川湾」(2021年3月26日改訂版)から