地域別人口推計を考える(その3)
2020年国勢調査をベースにした将来推計人口(令和5年推計)について。(4回シリーズとしています。)・地域別人口推計を考える(その1)(2024年01月31日)=地域別推計結果の概要・地域別人口推計を考える(その2)東北の市区町村(2024年02月14日)=個別の市区町村の結果・今回 地域別人口推計を考える(その3)(2024年02月15日)=将来推計人口について・地域別人口推計を考える(その4)移動仮定と封鎖人口(2024年04月25日)これまで2回は地域別推計について記した。3回目の今回は、推計人口というもの自体について。(本来は順番が逆とも言える。地域別将来推計人口は昨年12月公表だが、全国値の将来推計人口は昨年4月26日に公表されています。)公的な将来人口の推計として、国立社会保障・人口問題研究所が国勢調査の確定値を出発点として算定する「日本の将来推計人口」がある。2020年(令和2)の国勢調査を受けて、2023年版の「日本の将来推計人口(令和5年推計)」が2023年(令和年)4月に公表された。この最新推計では、前回の推計(「日本の将来推計人口(平成29年推計)」)と比較して、将来の総人口が増える結果となったのが特徴である。つまり、日本の総人口は減少することは前回推計と変わらないが、人口減少の進行はわずかながら緩和するというのである。以下に当ジャーナルとして解説したい。1 将来推計人口の基本的なしくみまず、「将来推計人口」の基本的なしくみを確認しよう。国際標準とされる人口学的手法に基づいている。具体的には、人口変動要因である (1)出生、(2)死亡、(3)国際人口移動 の統計指標を数理モデルにより将来に投影する形で、男女年齢別に仮定(後述)を設け、それらを起点人口に適用して1年後の人口を推計するコーホート要因法により、将来の男女別年齢別人口を推計するもの。すなわち、既に生存する人口については、加齢とともに生じる死亡数と国際人口移動数を反映して、将来人口を求める。また、新たに生まれる人口については、15-49歳の女性人口に生ずる出生数を性比で分け、その生存数及び国際人口移動数を順次算出して求め、翌年の0歳人口として組み入れる。このコーホート要因法の推計のためには、いくつかの仮定が必要だ。(1)基準人口(男女年齢別)、(2)将来の出生率及び出生性比(同前)、(3)将来の生残率、(4)将来の国際人口移動率(数)に関する仮定である。これらの仮定の設定に際しては、統計指標の実績値に基づいて人口統計学的な投影を実施することで行う。(1)基準人口(男女年齢別)は、令和2年国勢調査の人口(2)将来の出生率及び出生性比 日本人女性に発生する出生率に基づいて総人口の出生動向を推計。 コーホート年齢別出生率は、(a)50歳までの累積出生率と、(b)年齢パターンを設定して求める。(a)は、初婚、出生、離婚再婚などの行動に関する各指標を投影し、出生順位別コーホート合計特殊出生率(注:ここで3つの出生仮定=出生中位・高位・低位=が設定される)を合計することで定める。(b)は拡張リー・カーター・モデルで将来推計。 人口動態統計と同定義の合計特殊出生率は、実績値が2020年で1.33に対して下記となる。 中位の仮定で 2023年1.23 2070年1.36 高位の仮定で 2023年1.37 2070年1.64 低位の仮定で 2023年1.09 2070年1.13 男女の出生性比は、2016-2020年の実績値平均の(女児100に対して男児)105.2を一定として用いた。 (3)生残率の仮定(将来生命表)について。翌年の事項を推計するには、生残率(男女年齢各歳別)が必要で、それを得るために将来生命表を作成する必要がある。本推計では、1970-2020年の死亡率に基づき、作成。ここで、死亡率の推計について、標準となる死亡中位仮定のほか、死亡高位仮定、死亡低位仮定が付加されている。(4)国際人口移動率(数)の仮定は、国際情勢や災害等により大きな影響を受ける。日本人については入国超過率、外国人については入国超過数を基礎として設定。 なお、ベースは日本に常住する総人口であり、外国人を含む。国勢調査の対象と同一だ。2 推計のパターン(場合分け)将来の出生推移及び死亡推移について、それぞれ、中位・高位・低位の3仮定を設け、組み合わせにより9通りの推計を行う(これらを基本推計という)。公表資料では、出生3仮定(中位・高位・低位)と死亡中位仮定を組み合わせた3推計が主に記述されている。3 推計結果の概要死亡中位推計で、出生3推計は以下の通り。・出生中位仮定 総人口 2020年12615万人→2070年8700万人【←前回推計時8323万人】 0-14歳人口 2020年1503万人(11.9%)→2070年797万人(9.2%)【←853万人】 15-64歳人口 2020年7509万人(59.5%)→2070年4535万人(52.1%)【←4281万人】 65歳以上人口 2020年3603万人(28.6%)→2070年3367万人(38.7%)【←3188万人】 合計特殊出生率 2070年1.36【←前回推計時1.44】 平均寿命 2070年 男85.89年 女91.94年【←前回 男84.95女91.35】 外国人入国超過数 2040年163,791人【←前回 2035年69,275人】・出生高位仮定 総人口 2020年12615万人→2070年9549万人 0-14歳人口 2020年1503万人(11.9%)→2070年1115万人(11.7%) 15-64歳人口 2020年7509万人(59.5%)→2070年5067万人(53.1%) 65歳以上人口 2020年3603万人(28.6%)→2070年3367万人(35.3%) 合計特殊出生率 2070年1.64・出生中位仮定 総人口 2020年12615万人→2070年8024万人 0-14歳人口 2020年1503万人(11.9%)→2070年569万人(7.1%) 15-64歳人口 2020年7509万人(59.5%)→2070年4087万人(50.9%) 65歳以上人口 2020年3603万人(28.6%)→2070年3367万人(42.0%) 合計特殊出生率 2070年1.13要約すれば、総人口は50年後に総人口は7割に減る。前回推計(平成29年)よりも出生率位は低下するものの、平均寿命が延伸し外国人入国超過増により、人口減少はわずかに緩和している。4 今回の推計の特徴(編集長が加入している学会における討議を参考に。)前回推計に比較して、総人口が増えている。高齢者も増えるが、生産年齢人口が増えている。(以下中位推計で論じる。)前回との相違を整理すると、(1)出生率は長期で1.36(前回1.44)と推計されており、少子化が進行。(2)寿命は伸びるが伸び幅は大きくない。それにもかかわらず推計総人口が全期間で前回を上回っている。とはいえ、年齢別では、14歳未満人口は推計の全期間で前回推計より少ない一方で、生産年齢人口が全期間で前回推計より増加している。少子化が進行する一方で生産年齢事項が前回より増える現象の理由は、外国人の増加である。国際人口移動仮定において、純流入(入国超過数)が前回6.9万人→今回16.4万人、すなわち約10万人が増加することになっている。外国人でも定住すれば年金の加入と支払いの義務が生じるが、増えているのは若い世代(就学、一時的就業)であり、将来にわたり定住するかは定かではない。日本人人口の推計だけで見ると、総人口と異なり、生産年齢人口は前回から減少する結果となっている。少子化の影響は大きい。周辺諸国を見ても、韓国(0.8程度)、香港、台湾、シンガポールなどは急激な先進国化による現象で、日本に追随した形である。