キノの旅
でじたみんさんでセール品にいいのがあったので購入。ついでに、前から気になっていたグッスマの『キノの旅』の『キノ』も同梱注文。でも・・・俺『キノの旅』って読んだこと無いんだよね。というわけで、BOOK OFFで購入、約40%OFF。で、1巻読んでみたんですが・・・これは・・・何なんだろうね?・・・・・・いや、すごく不愉快な話にも読めるし、とても面白い話にも読める。非現実的な話の中に現実が見える。美しくもあり、醜くもある。そんな矛盾が混沌として存在しながらも、小説として成り立っている。どういう話かというと、キノは旅をしている。彼女はぱっと見、男のような格好をして、腰に2丁の拳銃をぶら下げて街から街へと旅をしている。相棒は『喋るバイク』のエルメスだ。コイツはいい。何しろ男でも女でもない、いや人間ですらない。だから色恋沙汰も無い。自分で動く事も出来ない。ただ喋れるだけだ。だから裏切って勝手にどこかに行くことも無い。寂しい時に話し相手になってくれるばかりか、作者にとって都合の良い語り手として、時には読者に非常に近い位置で質問をしてくれる。その1人と1台のバイクが訪れる街は、どれもこれもイカれた街。ある街では多数決で全てを決める事で平和を求め、少数になった者を反逆者として処刑し続けた結果、街の住人が2人になってしまった。その内の1人も病気で死んでしまう。何しろ医者だろうがなんだろうが『反逆者』のレッテルを貼れば殺してもいいというルーチンワークしか無かったのだから仕方が無い。結果、キノは最後の1人と出会う事になる。でも、だからといってキノは何もしない。誰も救うことも無く、ありのままの世界を見つめて再び旅に出る。自分の正義で、気に入らなければそいつを殺し、自分を守る為なら躊躇無く殺す。そして再び旅に出る。彼女は非常に冷たい感情を持ちながらも、人の心を捨てずに温かな心を持っている。そういう意味ではごく普通の人間だ。誰だって自分中心にものを考える。それは例えば習慣だったり、倫理観だったりするわけだけど。キノを基本にして描かれる異常な人々は、現代の自分達の比喩的表現だ。「こういう決まりですから。」とお役所仕事をしたり「あいつは悪い奴だからいい。」と言って皆で攻撃したり。「弱いんだからいいんだ。」といじめたり。「自分達さえ良ければいい。」と考えたり。群集心理も上手く描かれている。皆考えないようにしているだけで・・・例えば現実で俺達が今の暮らしをしていられるのは、どこかで知らない誰かが死んでくれているからなんだ!・・・と。こういう辛い事を突きつけられると、非常に心が痛む。だからとても不愉快な気分になるが、一方でそんな滑稽さを見て愉快な気分にもなる。とにかく人が死ぬので、そういうのが好きな人はもちろん楽しめる。人が死ぬ事を楽しめる人間は最低だと、通常の倫理観では多分そうなるだろうけど、だったら『衝撃映像100連発』というTV番組の中に人が死ぬシーンが入っているのはなぜだろう?そう、人間は根本的に破壊とか暴力が大好きだ。でも、それを抑制しないと世界を破壊しかねないので、暴力=悪いこととしている。気に入らない奴を殴りたい、究極的には『殺したい』と思うことは人間として普通の事だと思う。そういう人間の醜い部分が描かれている。冒頭でキノはその事について語っている。それが自分の旅をする理由なのだと。詳しくは是非本を読んで欲しい。それぞれに感じ、思う部分がきっとあるはずだ。