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カテゴリ:映画
「シェイプ・オブ・ウォーター」(原題:The Shape of Water)は、2017年公開のアメリカのSFファンタジー&ロマンティック・ダーク・コメディ映画です。ギレルモ・デル・トロ監督・共同脚本、サリー・ホーキンス、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンス、ダグ・ジョーンズ、マイケル・スタールバーグ、オクタヴィア・スペンサーら出演で、1960年代、冷戦下のアメリカを舞台に、マイノリティが虐げられていた当時の社会情勢を反映しながら、アマゾンで捕獲された異生物と声を出すことができないヒロインの種を超えた愛を幻想的に描いています。第74回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を、第90回アカデミー賞で作品、監督、美術、作曲の4賞を受賞した作品です。
「シェイプ・オブ・ウォーター」のDVD(楽天市場) 【スタッフ・キャスト】 監督:ギレルモ・デル・トロ 脚本:ギレルモ・デル・トロ/ヴァネッサ・テイラー 原案:ギレルモ・デル・トロ 出演:サリー・ホーキンス(イライザ・エスポジート) マイケル・シャノン(リチャード・ストリックランド) リチャード・ジェンキンス(ジャイルズ) ダグ・ジョーンズ(彼、不思議な生きもの) マイケル・スタールバーグ(ロバート・ホフステトラー博士) オクタヴィア・スペンサー(ゼルダ・フラー) デヴィッド・ヒューレット(フレミング) ニック・サーシー(ホイト元帥) スチュワート・アーノット(バーナード) ローレン・リー・スミス(エレイン・ストリックランド) ほか
【あらすじ】
【レビュー・解説】 1962年のアメリカを舞台に、言葉が不自由な女性の主人公、アフリカ系アメリカ人の同僚、隣人のゲイのイラストレーターなど、マイノリティにフォーカス、アマゾンで捕獲された異生物と主人公の女性のラブストーリーをサリー・ホーキンスらオスカー級の強力な俳優陣が熱演、スリラー、ミュージカル、コメディといった異なる要素を取り込みながら、まるで魔法のように美しく幻想的に纏め上げられた、ギレルモ・デル・トロ監督の想像力と構成力の集大成と言える大人の為の感動的ダーク・ファンタジーです。 水のように形にとらわれない愛のポテンシャルを描く 6歳の時に「大アマゾンの半魚人」(1954年)を観たデル・トロ監督は、川を泳ぐジュリー・アダムスに恋をし、水中から彼女を見上げる半魚人に感情移入しました。彼の中で美女と半魚人が融合し、二人が一緒になるハッピーエンドを期待しましたが、そうはならず、残念な思いをしました。その後、10年もの間、一日に二度も三度も、半魚人の絵を書いて過ごしたと言うデル・トロ監督にとって、本作は幼い頃の夢を叶える作品です。 言葉が不自由な女性の主人公、同僚のアフリカ系アメリカ人の女性、隣人のゲイのイラストレーターなど、マイノリティにフォーカスしつつ、アマゾンで捕獲された異生物と主人公の女性のラブストーリーを描く本作は、水中撮影のように幻想的なオープニングやエンディングの他、モチーフとして水を頻繁に登場させるなど、タイトルに言及されているようにどんな形にも変化する水に愛のポテンシャルを託しています。 オスカー級、アテ書き、常連、売れっ子と強力な演技派俳優陣
アマゾンの異生物と女性のラブストーリーを描きたかったデル・トロ監督は、早くからサリー・ホーキンスに注目していました。最近、サラ・ウォーターズの「荊の城」を原作に舞台をイギリスから日本統治下の韓国に移した韓国映画「お嬢さん」(2016年)が話題になりましたが、2005年にBBCが同じ原作をテレビ映画化、サリー・ホーキンスがメイン・キャラクターを演じていました。 すべてはサリー・ホーキンスから始まったんだ。テレビドラマの「荊の城」で初めて彼女を見たんだ。彼女は女性と恋に落ち、すばらしいラブシーンがある。異常でも、刺激的でも、わいせつでもなく、実に淡々としているんだ。彼女らは愛し合い、セックスをするが、それが彼女らのすべてじゃないんだ。愛し合う二人の女性の関係は複雑なんだ。殺人ミステリーで、セックスはその一要素にすぎない。「シェイプ・オブ・ウォーター」で二人のセックスは重要だが、でも性的な意味合いや、気を揉むよな要素は持たせたくなかった。彼らは愛し合った、そしてセックスをしたという、そんなニュアンスなんだ。そして、彼女が主演した「ハッピー・ゴー・ラッキー」を見て思ったんだ、「彼女は、優美で至福な状態を演ずることができる」ってね。「サブマリン」を観て「彼女は言葉がなくても、前面に出てくることができる」と思い、ブルージャスミンを観て「彼女は映画スターだ、彼女とやんなくちゃ」と思ったんだ。 舞台設定に込められた風刺的意味合い デル・トロ監督の前作「デビルズ・バックボーン」(2001年)、「パンズ・ラビリンス」(2006年)では、スペイン内戦とその後が時代背景ですが、本作では冷戦時代、1962年のアメリカが舞台となっています。この年は米ソの冷戦構造を象徴するキューバ危機があった年で、ジャイルズが施設の地下の検問を通る際に国民に危機を伝えるケネディ大統領の演説がラジオから流れています。また、米ソの冷戦構造を反映したスパイ活動や宇宙開発競争が、プロットの一部に取り込まれています。 第二次大戦後のこの時代は、朝鮮戦争の軍需や個人消費がアメリカの経済成長を支え、アメリカ国民が豊かになり、輝かしい将来の夢を見続けた時代です。本作でも、ストリックランドがアメリカ国民の豊かさと輝かしい将来の象徴であったキャデラックを購入しますが、デル・トロ監督は時代背景に風刺的な意味合いを見出しています。 アメリカ人が「強いアメリカを再び」という時、彼らは1962年を夢見ているんだ。何故かって?彼らはジェット機のような尾翼のついた車を夢見ているんだ。キッチンは実際的で機能的だ。人々は郊外に移り住み、時間ができた女性はセットした髪をヘアスプレーで固め、ペチコートの上にスカートをはいて形を整え、子どもたちはテレビに夢中だった。テレビを観ながら夕食をとり、ジェロー(ゼラチン・デザート)を食べ、誰もが人工衛星や宇宙開発競争など、未来を語ったんだ。 アメリカ国民の豊かさと輝かしい将来の象徴だったキャデラック 1959 Cadillac Coupe(楽天市場) つまり、トランプ大統領が「強いアメリカを再び」と言う時、メキシコ出身のデル・トロ監督は、
デル・トロ監督の想像力、構成力の集大成
僕は、私生活よりも映画の中に全部人生があるようなところがある。だから、題材に信念を持つというか、完璧に信じるしかない。今回だって、喜劇でスリラーでミュージカルでドラマで、不思議な生き物と口のきけない女性の愛のストーリーだと言ったときに、誰も信じてくれなかった。でも、僕は信じないといけない。(ギレルモ・デル・トロ監督) 2011年、彼は自己資金でスタッフを雇い、異生物と研究施設のデザインを始めます。生物のデザインには、三年の歳月をかけたと言います。新たな怪獣としてデザインするのではなく、葛飾北斎の鯉の版画を異生物のパターンのモチーフにするなど、我々のDNAの中に生きているものを組み合わせ、実際に存在して欲しい美しく貴重な芸術品としてデザインしています。また、水泳選手の肩幅とお尻の比率を参考にし、特にお尻は入念にデザインされています。粘土でラフモデルをいくつも作成し、その後に彫刻、透ける層を二十も重ね塗りして色を出しています。2014年、フォックス・サーチライトが、デル・トロ監督の本作にイチかバチかの賭けに出て、本作が実現しました。 ダークなトーンを基調に、将来を象徴する緑、愛を象徴する赤を効果的に使用したカラースキームや、アカデミー作曲賞を受賞したサウンドトラックも、異質な要素を美しく纏め上げるデル・トロ監督の世界観を反映しています。 サリー・ホーキンス(イライザ・エスポジート) サリー・ホーキンス(1976年〜)は、ロンドン出身のイギリスの女優。王立演劇学校を卒業、主にイギリス国内の舞台・テレビ・映画で活躍している。マイク・リー監督の「ハッピー・ゴー・ラッキー」(2008年)でベルリン国際映画祭銀熊賞やゴールデングローブ賞主演女優賞を受賞、ウディ・アレン監督の「ブルージャスミン」(2013年)でアカデミー助演女優賞にノミネートされている世界的に知られた演技派の女優。本作でも、アカデミー主演女優賞にノミネートされている。 マイケル・シャノン(リチャード・ストリックランド) マイケル・シャノン(1974年〜)は、ケンタッキー出身のアメリカの俳優。ロックバンドのPVでデビュー、シカゴで舞台に立つようになる。「恋はデジャ・ブ」(1993年)で映画デビュー、キャリアを重ね、「レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで」(2008年)でアカデミー助演男優賞にノミネートされている。「テイク・シェルター」(2011年)、「MUD -マッド-」(2012年)、「ミッドナイト・スペシャル」(2015年)など、ジェフ・ニコルズ監督作品に必ずと言ってよいほど出演している。 リチャード・ジェンキンス(ジャイルズ) リチャード・ジェンキンス(1947年〜)は、イリノイ州出身のアメリカの俳優。大学で演技を学び、劇場で舞台監督として活躍、1970年代半ばからテレビ・映画で幅広く出演している。「扉をたたく人」(2008年)でアカデミー主演男優賞に、本作で同ジョン男優賞にノミネートされている。 ダグ・ジョーンズ(彼、異生物) ダグ・ジョーンズ(1960年〜)は、インディアナポリス出身のアメリカの俳優。大学在学中からパントマイムを始め、劇団、1990年から多くのテレビ・映画に出演。「ミミック」(1997年)以降、ギレルモ・デル・トロ監督作品の常連となり、「ヘルボーイ」(2004年)、「パンズ・ラビリンス」(2006年)、「ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー」(2008年)にも出演している。 マイケル・スタールバーグ(ロバート・ホフステトラー博士) マイケル・スタールバーグ(1968年〜)は、カリフォルニア出身のアメリカの舞台、映画、テレビ俳優。ジュリアード学院、ロンドン大学、UCLAで演技を学ぶ。卒業後より舞台俳優として活動し、トニー賞にもノミネートされる。映画では「ワールド・オブ・ライズ」などに端役で出演した後、「シリアスマン」(2009年)で初主演を果たし、ゴールデングローブ賞などにノミネートされる。売れっ子俳優で、2017年に出演した本作、「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」、「君の名前で僕を呼んで」の三作がすべてがアカデミー作品賞にノミネートされている、今後が楽しみな俳優である。 オクタヴィア・スペンサー(ゼルダ・フラー) オクタヴィア・スペンサー(1970年〜)は、アラバマ州出身のアメリカの女優。キャスティングの仕事をしていたが、1996年に端役のオーディションを受けて映画デビュー、数多くの作品にクレジットされようになる。次第に高い評価を得るようになり、「ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜」で主要人物の一人を演じ、アカデミー助演女優賞を受賞する。「ドリーム」(2016年)、本作でアカデミー助演女優賞にノミネートされている。 【劇場用ポスター】 「シェイプ・オブ・ウォーター」ポスターのアートワーク 台湾のイラストレーター、ジェイムズ・ジーン制作のポスター用アートワーク。「大アマゾンの半魚人」のポスターと比較すると、デル・トロ監督の制作意図が明確に反映されていることがわかる。通常、こうした作品の制作プロセスが公開されることがないが、珍しいことにジェイムズ・ジーンはプロセスを公開した(http://arrestedmotion.com/2017/07/james-jean-the-shape-of-water-poster/)。オリジナルのインスタグラムの投稿をたどると、この作品は三日余りで制作されていることがわかる(オリジナル・スケッチは含まず)。 「大アマゾンの半魚人」のポスター 【サウンドトラック】 「シェイプ・オブ・ウォーター」のサウンドトラックCD(楽天市場)
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Last updated
2018年08月27日 05時00分10秒
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