柔道をやる上での僕の階級は73キロ以下級です。
どちらかと言うと軽量級の部類に入るのでしょうか。
無差別級の団体戦に出場するときは、いつも自分より大きい人ばかりで、
まず技術よりも力で圧倒されてしまいます。
よく世間では「柔よく剛を制す」という言葉が使われていますが、
しかしこの言葉。ある程度、実力差とかがあれば別ですが、
よほどの事がないかぎり、その言葉を実践するのは難しいように思います。
僕が高校の時に、とある試合で修徳高校の強い選手と対戦しました。
その選手は120キロ以上の重量級で、エース的な存在でした。
当然、実力も目を見張るものがあったのですが、
その選手のもっと凄いのは柔道を始めてから
1度も一本負けをしたことがないことです。
受けには相当の自信があったようで、それだけ思い切った柔道が出来るのでしょう。
当時、僕はレギュラーだったわけでもなく、いわば2軍的存在でした。
組み合った瞬間に威圧感を感じましたが、半分開き直りです。
どうせ負けるんだろうから、せいぜい一泡吹かせてやるか。
そんなに緊張もせず、気軽な気持ちで立ち向かっていったのです。
まずは相手よりも先に良いところを持ち、先に技を仕掛けよう。
やられる前にやってやろう。
そんな感じで先に組み手で良いところを持ち、素早く動き、
思い切り背負い投げを仕掛けました。
気付いたときには、相手が勢い良く一回転して自分が上になっていたのです。
審判も迷うことなく右手を高々と挙げ、一本を宣告していました。
何が何だか分かりませんでしたが、とりあえず勝ってしまったのです。
おそらく会場の誰もが相手の華麗な一本勝ちを期待していたでしょう。
しかしその相手は華麗に宙を舞い、畳に打ち付けられていました。
会場にいた全員がビックリです。
というか、何よりも勝った当の本人が1番ビックリしていました。
一瞬の間だったので、よく分かりませんでしたが、
これこそ「柔よく剛を制す」です。
ちなみに生まれて始めて一本負けをした相手の人ですが、
あまりの悔しさに人目も気にせず、大泣きしていました。
気持ち良く勝ったのに、なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいなのはなぜでしょう。
この日を境に僕の背負い投げが有名になったことは言うまでもありません。