|
テーマ:■ムービー所感■(484)
カテゴリ:日本映画
心の病がきっかけで、夫の孝夫と共に彼の故郷である信州の山間にある村に診療医としてやってきた美智子。2人は町の人々との触れあいの中で、質素に生きる喜びを知り、人生について再確認するのだった…。 晩年の黒澤明作品で、助監督を務めていた小泉監督。 初監督作「雨あがる」は、巨匠黒澤の遺した遺稿を元にしたもので、日本の情景と浪人の生き方が美しく、とてもジンとしたのを覚えています。 この時主演を演じた寺尾聰は、今回の「阿弥陀堂だより」、そして最新作「博士の愛した数式」でも小泉監督作品に起用されて、穏やかな人柄を演じています。 パニック障害を発病し、都会から夫の生まれ故郷である信州の山間の村へやってきた、医者の美智子。 診療所で週に三日働き、主夫である売れない作家の夫と共に、村の人々と接しながら次第に心を癒していくまでを描きます。 徹底して日本の美を映像化した印象でした。 美しい情景、美しい言葉、美しい人間模様―― どれもこれも、日本人なら一度は心惹かれる和まされるシーンに溢れています。 とにかくいいお話です。 反面、意図的なものを感じてしまったのは残念でした。 田舎暮らしはいいことばかりではなく、厳しさもあるはずですが、そういった陰の部分がまったくないのは、お話の域を出ない感じでナチュラルさにも欠けていたのが残念です。 村の死者を祀る阿弥陀堂に暮らすおうめ婆さんは、そんな中、本当に素晴らしかったです。 演じたのは北林谷栄さん。 「ビルマの竪琴」や「となりのトトロ」でおばあちゃんの声を担当した方です。 演じたとはいいますが、演技とは到底思えないナチュラルな姿は、彼女を観れただけでも鑑賞の価値が充分あった~と思えるほどでした。 素晴らしい~ 村の人々は、死者と語らって生きています。 死と隣りあわせで今生きていることを知っています。 「目の前のことばかりに気をとられ、悩み事を増やさなかったのが長寿の秘訣かもしれません」 「畑から食べたいものを摂って質素に生きるてきたことが、長生きに繋がったのだとしたら、それは貧しさのおかげです」 そんなふうに、村の広報の後記「阿弥陀堂だより」に載せられるお年寄りの言葉は、いろんなことを内包していて素直にジンときてしまいました。 阿弥陀様を信心して、死者と共に生きる。 自然を始めとする全てのものに感謝しながら――それは日本人の美徳で、現代人は忘れかけていることのように思います。 病に倒れる者、死期の近づいた者、それぞれに死と向き合う人たちのエピソードもまた、味があります。 死を覚悟して静かに生きる孝夫の恩師を演じたのは田村高廣氏で、一月前に亡くなったことが偲ばれました。 死を目前にして、あれだけ穏やかな心でいらたら、それは良く生きたことなのでしょう。 自分もそうやって生きていきたいし、そのためには目先のことから、毎日をちゃんと暮らしていきたいな~と静かに思えてきた作品でした。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 監督 小泉堯史 原作 南木佳士 『阿弥陀堂だより』 撮影 上田正治 音楽 加古隆 出演 寺尾聰 、樋口可南子 、北林谷栄 、小西真奈美 、吉岡秀隆 、田村高廣 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[日本映画] カテゴリの最新記事
|