|
テーマ:■ムービー所感■(484)
カテゴリ:ポーランド映画
「見る」という行為を通して愛を描いた純愛映画。郵便局で働く19才の少年トメクはマグダという女性に密かに恋焦がれていた。そして彼は毎夜8時半になると、アパートに帰ってきた彼女を向かいの自分の部屋から望遠鏡で覗き続けるのだった……。 キエシロフシキ監督の代表作でもある「デカローグ(十戒)」は、元はTVシリーズでした。そのなかの5話と6話は劇場用に編集して公開され、その第6話目が本作。 第六の戒 『汝、姦淫するなかれ』 一年もの間、向かいのマンションに住む女性を覗き続けた青年トメクの純粋な愛と、覗かれた孤独な女性マグダの生き様が交錯するとき、何かが壊れ逆転し、再生する様を情感もって描きます。 この切なさはなんだろう、、。暫く感じたことのない切なさに、心が揺れました。 望遠鏡で覗くのも、職場の郵便局で彼女の手紙を抜き取るのも、無言電話を掛けるのも、ともすると単なる変態。 ところがトメクの純粋さに打たれる時、‘愛すること’の可能性を見せつけられた気がして、切なくて胸がギュッとなりました。 ルコントの「仕立て屋の恋」でも感じましたが、覗くこと・ただ見つめることは、変質さと触れることないプラトニックな純粋さが同居しているようです。 覗くことで相手のオフの姿を知っていて、それでなお愛せるのだとしたら…それはそれは大きな感情といえるのはないでしょうか。 ただ実際は許されない行為だけれど。 同じことをされたら、誰だって覗かれたマグダのように、気味悪がり嫌悪感に襲われることでしょう。。 相手が純粋なだけが取り得の一途な青年だとしても。 トメクの年頃の、なんでも可能にしてしまう程の恋のパワーは、色恋を重ねるうちだんだん薄れていってしまうだけで、誰でも一度は経験しているのではないでしょうか。 懐かしい気持ちになりました。 彼は確かに男女の営みについては何もしらないけれど、‘相手を命がけで想う’ことができます。 歳を重ねるごと難しくなる事を、彼は迷わずにできる。 それはものすごいパワーで、ものすごく切ないことなのでした。 孤独から自室に男を連れ込んでは愛のない関係を続けてきたマグダに、トメクからの無償の愛は衝撃でした。 彼の部屋に初めて足を踏み入れた時、自分の部屋の窓に向けられた望遠鏡の先に見えた自分の生活。 そこには客観視できて初めて気づく、孤独に荒んだ自分の姿が見えました。 そしてそんな彼女に優しく寄り沿うトメクの幻影―――。 もう手遅れだとしても、希望を残したラストに救いがあって良かった。 ピアノやギターで奏でられるテーマ曲が素晴らしい。 監督 クシシュトフ・キエシロフスキ 製作総指揮 リシャルト・フルコフスキ 脚本 クシシュトフ・キエシロフスキ 、クシシュトフ・ピエシェヴィッチ 撮影 ヴィトルド・アダメク 音楽 ズビグニエフ・プレイスネル 出演 オルフ・ルバシェンク 、グラジナ・シャポロフスカ ステファニア・イバンスカ (カラー/87分) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[ポーランド映画] カテゴリの最新記事
|