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行きかふ人も又

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2007.05.24
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カテゴリ:日本映画

 “職業の為に汚されない、内容の多い時間を有する上等人種であり、社会からはみ出した余計者” の主人公。
大助は、裕福な父や兄から援助を受けて、立派な家に住み、働くこともせず悠々自適な日々を送っている。
飄々と生きる上等人種で、世間をばかにしたところのある、けれど穏やかな好男子である彼が、3年ぶりに再会することになる、親友の妻・三千代によって、抗いがたい思いの深さに道を外れてゆく物語―――。

時は明治時代。どろどろしたものは一切なく、清すぎるほどの思いがあるだけ。静かで、格調高く綴られる、許されぬ恋の行くえが描かれる。
何不自由ない大助でも、現実にはひどく無力だ。依存して好き勝手に生きてきたからこそ、人に頼ることができない立場におかれるのは、自業自得といえるかもしれない。お金さえ自由にはならない、情ない男。
仕事上の責任を取り、借金を抱えて東京へ戻ってきた親友の妻・三千代の姿を見て、大助は心痛めるが、心臓を患い、体を壊した彼女を、どうしてやることもできないのだ。大助は、何度も過去を悔い、何度も義姉に頼み、お金を工面してもらうのだが、厳格な父親がすすめる縁談話に従うよりほかなくなってしまう、、、。

世間体などかなぐり捨てて、愛する女性のために覚悟を決めるまでの物語なのだが、原作には、ここからさらに続きがある。
親友と妻の裏切りを知った平岡は、引き下がる態度を示しながらも、病状の悪化した三千代を家に閉じ込める。ふたりは再会することのないまま、三千代は息をひきとってしまう。
この時、事実を知り失意のまま電車に乗り込んだ大助は、狂いかけた精神で鮮烈な赤い光を見る―――
この幻想的な原作のラストが強烈。映画でも電車内でのシーンは、3度、効果的に取り入れられている。幻想と象徴。回想と無声の情緒、たくさんの場面が心に染みる。
存在感ある音楽も素晴らしく、原作に負けない良作だった。

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 監督/ 森田芳光
 原作/ 夏目漱石 『それから』
 脚本/ 筒井ともみ
 音楽/ 梅林茂
 出演/ 松田優作  藤谷美和子  小林薫  笠智衆  中村嘉葎雄

  (カラー/130分)






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Last updated  2010.09.05 08:39:00
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