|
テーマ:本のある暮らし(3316)
カテゴリ:本
砂丘へ昆虫採集へ出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。 考えつく限りの方法で脱出を試みるが、女は家を守るために、男を穴の中に引きとめようとする。 そんな男を、部落の人々は穴の上から、逃亡を妨害しながら眺めているのだった―――。 昭和37年刊行の古い作品でした。 映画になっていて、監督は勅使河原宏。岸田今日子、岡田英次、主演。 カンヌで審査員特別賞をとり、「死ぬまでに観たい映画1001本」にも選ばれています。 オンラインにはないけれど、きっと観たいと思いました。 猛烈に面白い設定でした~ 砂丘に閉じ込められ、逃げられない砂の恐怖は、癖になるほどサスペンスフルでした。 部落ぐるみで人さらいをする・・・なさそうでありそうな怖さが絶品。 20数カ国語に翻訳されているわけですね~面白い! グロテスクで、太陽の光差し込まぬ暗いイメージ。 男のぶざまな姿が超リアルで、絶妙な比喩の数々に想像が掻き立てられました。 砂 読んでいる間じゅう、そこらじゅうにありふれた砂の存在が、大岩のように意識されていました。 口に入った時のジャリジャリした感覚とか、水を含んだ時湧き立つ泡とか・・・ とても身近な砂に、まるで生き物みたいに得体の知れない怖さを感じて、圧倒されっぱなし。 形態を持たないということこそ、力の最高の表現なのではあるまいか・・・ この一節が印象に残ります。 揺るぎないものを持ってることが強さと思ってきたけれど、そうとばかりは言えないのかもしれませんね。 形態のないもの、掴みどころのない人、漠然としたものこそ、強いこともある。 逆説だけれど、いつもと違った捉え方を知ると嬉しくなります。 それから蠱惑という言葉。 言葉を知らないので、ほとんど聞くことも使うこともなかったこの言葉に、反応してしまいました。 人の心を引きつけて惑わすさま。 虫偏なのが、この言葉を使う昆虫採集が趣味の主人公によく似合っています。 おなじ生き物でも、蟲に対して湧く感情は、動物とはまた違う特別なもの。 主人公が動物ではなく、蟲を好むあたりにも、大きな意味あいがあるようです。 ハンミョウについて語る冒頭も印象深い。 作品の世界に引きずり込まれた名作でした。 他の安部公房作品も、これから手にとってみたいです お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[本] カテゴリの最新記事
|