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行きかふ人も又

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2007.08.05
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  砂丘へ昆虫採集へ出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。
考えつく限りの方法で脱出を試みるが、女は家を守るために、男を穴の中に引きとめようとする。
そんな男を、部落の人々は穴の上から、逃亡を妨害しながら眺めているのだった―――。


  昭和37年刊行の古い作品でした。
映画になっていて、監督は勅使河原宏。岸田今日子、岡田英次、主演。
カンヌで審査員特別賞をとり、「死ぬまでに観たい映画1001本」にも選ばれています。
オンラインにはないけれど、きっと観たいと思いました。

猛烈に面白い設定でした~
砂丘に閉じ込められ、逃げられない砂の恐怖は、癖になるほどサスペンスフルでした。
部落ぐるみで人さらいをする・・・なさそうでありそうな怖さが絶品。
20数カ国語に翻訳されているわけですね~面白い!


グロテスクで、太陽の光差し込まぬ暗いイメージ。
男のぶざまな姿が超リアルで、絶妙な比喩の数々に想像が掻き立てられました。



読んでいる間じゅう、そこらじゅうにありふれた砂の存在が、大岩のように意識されていました。
口に入った時のジャリジャリした感覚とか、水を含んだ時湧き立つ泡とか・・・
とても身近な砂に、まるで生き物みたいに得体の知れない怖さを感じて、圧倒されっぱなし。

形態を持たないということこそ、力の最高の表現なのではあるまいか・・・

この一節が印象に残ります。
揺るぎないものを持ってることが強さと思ってきたけれど、そうとばかりは言えないのかもしれませんね。
形態のないもの、掴みどころのない人、漠然としたものこそ、強いこともある。
逆説だけれど、いつもと違った捉え方を知ると嬉しくなります。


それから蠱惑という言葉。
言葉を知らないので、ほとんど聞くことも使うこともなかったこの言葉に、反応してしまいました。
人の心を引きつけて惑わすさま。
虫偏なのが、この言葉を使う昆虫採集が趣味の主人公によく似合っています。
おなじ生き物でも、蟲に対して湧く感情は、動物とはまた違う特別なもの。
主人公が動物ではなく、蟲を好むあたりにも、大きな意味あいがあるようです。
ハンミョウについて語る冒頭も印象深い。

作品の世界に引きずり込まれた名作でした。
他の安部公房作品も、これから手にとってみたいですウィンク









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Last updated  2007.08.05 16:55:50
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