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カテゴリ:イラン映画
女流監督マルズィエ・メシュキニの初監督作品。 イランのキシュ島を舞台に、イスラム社会で生きる女性たちの、それでもなお厳しい現実を見据えた3つのオムニバス・ストーリー。 ヴェネチア映画祭で、最優秀新人監督作品賞を受賞しています。 キシュ島の場所を知りたくて、世界地図をひっぱり出してきたけれど、載っていないみたい。 イランでありながら、西洋風のリゾート地だといいます。小さい島なのかな。 第1話「ハッワ」 「ハッワ」はイブのこと。主人公の名前と、9歳になる前夜というニュアンスを、掛けてあるのでしょう。 ――今日はハッワの誕生日。イスラムの女の子は、9歳になると大人として扱われ、スカーフを被り、男の子たちとも遊べなくなります。子どもでいられる最後の半日を描いた物語。 9歳で女として扱われるなんて早いですね。 もちろん、ハッワにとっても、自覚はあとから。男友達との残された時間がなごり惜しくてたまりません。 祖母と母親にわがまま言って、彼女が生まれた正午までならと、遊びにいく許可をもらうのです。砂に棒をさして、影が消えるまでに戻る約束。 彼は彼で、勉強しなさい!と家に閉じ込められてしまって、窓の格子から、わずかに残された一緒の時間を過ごすふたり。 健気な子どもたちの姿は、イラン映画の魅力。自然の仕草が好きです。 魅力もそのはず、子どもたち主役の作品が、断然多いのがイラン映画。 この作品が他と違うのは、リゾートの島である舞台キシュの情景がとても美しくて、陽気なところでした。 青い海、青い空、砂に囲まれてはいるけれど、南国みたいな明るさがあります。 ストーリーは、相変わらずに、生活や宗教が背景にある切実なものだけれど、陽気さが今までとは違った魅力を引き出していました。 棒から伸びる影を幾度も気にしながら、ふたりでひとつのキャンディーを舐める。 そして、さようならの時間がやってくる。 「ハッワ」 「アフー」 第2話「アフー」 ――この日、キシュ島では女子自転車レースが行われていました。参加者のひとりで離婚を望むアフーを追いかけ、考え直すよう説得する男たちが、馬に乗って次々と現れるのですが・・・ 「アフー」は鹿の意味。こちらも主人公の名と、タイトルと、内容がリンクしています。 これぞまさに、イスラムの男性優位社会に生きる、女性の闘い。 どんなに止められても、決して漕ぐのをやめないアフーの頑なな姿は、女として応援してしまう。 次から次と送り込まれて増えていく男たちを尻目に、アフーの闘いは終わりません。 抜きつ抜かれつ、レースに挑みながら、男社会にも挑んでいる。まるで女性解放のレースをひとりで闘っているようです。 ヒマールをはためかせ、ばく進するスピード感が見どころでした。 内容ばかりじゃなく、冒頭から、馬に跨った男がアフーを探し出すまで荒野を延々駆るシーンなど、勢いがあって素晴らしい。 すごくシンプルな構図・撮り方なのかもしれないけれど、このシンプルさをじっくり見せてくれる映画は少なくなっているのではないでしょうか。 大満足な小品でした。 第3話「フーラ」 ――島の空港。飛行機から降立った、ひとりの老女フーラ。彼女はポーターの少年たちを従え、長い間憧れていた品々を買いに、いざ出発するのです。 「フーラ」は妖精の意味。このネーミング、なんだかわかります。 老婆フーラは不思議な魅力のある人でした。 テレビ、掃除機、オーディオ、ソファーに冷蔵庫。お鍋にベッドにコーヒーポット・・・ あらゆるものを買い込んでいくフーラの後には、いつしかポーターの少年が列を成します。 さんざん買い物をしたあとで、透明なポットが気に入らないと、一人の少年を引き連れデパートへ引き返すフーラをよそに、残された家電・家具・生活雑貨と少年たちは、お祭り騒ぎをはじめるのでした。 真っ白な砂浜に、ぽっかりお家ができちゃう!なんとも楽しい三作目。 無条件で幸福になれる映画がありますが、こちらもそうです。 珍しくてたまらない高価な家庭用品と戯れる、少年たちの夢のような時間は、ありそうでない出来事なのでしょう。 そんな夢を見せてくれるのは、フーラさん、妖精ような不思議なお婆さんなのでした。 手製の筏に載せられた生活用品が、青々した海にぽっかり浮かぶ、ラストシーンが大好きです。 最後にみっつのお話がリンクしているのが、ミソ。 女性による視点で描かれたオムニバスの佳作といってよい作品では、ないでしょうか。 監督 マルズィエ・メシュキニ 脚本 モフセン・マフマルバフ 撮影 モハマンド・マフマディ 出演 ファテメ・チェラグ・アザル 、シャブナム・トルーイ 、アズィゼ・セッディギ (カラー/78分/イラン映画) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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