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テーマ:■ムービー所感■(484)
カテゴリ:ハンガリー映画
1956年、ソ連の支配下にあったハンガリーの首都ブダペスト。独裁的な共産主義政権に対する市民の不満は募り、学生を中心に自由を求める声が高まっていた。 そんな中、政治にまるで関心のなかった水球のオリンピック選手カルチは、学生たちに連帯を呼びかける女性闘士ヴィキの姿を目にして心奪われる。そして、デモが激しい銃撃戦へと発展していく中、もはや傍観者ではいられなくなったカルチは、ヴィキと共に、闘争の最前線へと身を投じていくのだったが―――。 1956年の“ハンガリー動乱”と、その数週間後にオリンピックで起きた“メルボルンの流血戦”という史実を基にした骨太なドラマ。 監督はハンガリーの新鋭女流監督、クリスティナ・ゴダです。 全体を通して、良くできているこの映画、他と違うのはどこでしょう。いままでにも、ナチス政権下のポーランドだとか、社会主義や共産主義に弾圧された人々が立ち上がる、良質な映画はありました。そんな中で、他とは違うところ。 まずは“水球”というスポーツものの要素を上手く絡めてあること。試合のシーンも多く描かれます。共産主義との闘いは銃を持つことばかりではなく、オリンピックに出場し、敵国を負かすことでもあった。そんな時代の男たちの真剣勝負が、戦闘と並行して描かれていくのが新しい。 それから、負傷した学生や市民の描写がリアルなこと。実際に機関銃で撃たれれば、足はもげるし、肉片は散るでしょう。爆発にあえば丸焦げにもなるでしょう。そんな目を覆いたくなるような凄惨な状態を、嘘っぽさのないリアルな映像に仕上げたことも、本作ならではの良いところだと思います。 もうひとつ最後に挙げるなら、ハッピーエンドではないところ。この一点は、かなり重要でした。 もしもカルチとヴィキが困難の末再会しハッピーエンドで終わっていたら、、、勝手な話だけれど、満足度はかなり低くかったと思います。このての映画には、悲劇でしかありえないところに、当時の厳しさの説得力がある気がしてしまうのです。 敬愛するポーランドの抵抗三部作のように、甘ちょろい終わりは似合わない。 水球にすべてを懸けた男たちがいて、恋で人生を大きく変えたカルチがいて、革命運動の果てに堂々と死んでいったヴィキがいて―――。 たとえきっかけは恋愛でも、はじめて自国ハンガリーの現状を真剣に考えるようになっていくカルチの姿は共感できるもの。ほかの水球選手にしたら、とても身勝手に映る行動だけど立派。 再びオリンピックへ向けてチームに戻ったことも、とても勝手な行動にみえるけれど、平和的に勝利を収める方法がここにもあるってことを教えてくれるラストなのでした。 オリンピックの存在意義までほんのり感じることができる、良い作品です。 監督 クリスティナ・ゴダ 脚本 ジョー・エスターハス エーヴァ・ガールドシュ ゲーザ・ベレメーニ レーカ・ディヴィニ 音楽 ニック・グレニー=スミス 出演 イヴァーン・フェニェー カタ・ドボー シャーンドル・チャーニ カーロイ・ゲステシ (カラー/120分) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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