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テーマ:本のある暮らし(3315)
カテゴリ:本
三浦しをんさんのエッセイ『三四郎はそれから門を出た』での、おすすめの一冊。 これを入れたら、お薦め本、すでに7冊を読んだことになります。 「わたし」の超絶的な美少女の妹ユリコと、元同級生の大手企業に勤めるOL和恵は、娼婦になって小さなアパートの一室で殺された。「わたし」は異様なまでの饒舌さで、彼女たちのこと、自分自身のことを語っていく―――。 そして明らかになる、この社会の中に巧妙に隠された、欺瞞と矛盾。 (『三四郎はそれから門を出た』より) わたしにとって近年読んだ青春小説といえば、芥川賞をふたりで同時受賞した、綿矢りさと金原ひとみ作品です。それなりに良かったけれど、桐野夏生作品から感じた読了後の強い衝撃とは、較べものになりませんでした。 『リアルワールド』、そしてこの『グロテスク』。どちらもものすごくて、大好きになりました。 夏の今こそ、読むのにベストタイミングかも。 ここに語られていることは、誰もが日々向かい合っている社会の矛盾。気付こうが気付くまいが、どうすることもできない真理です。 長く漠然と感じてきたことが、作家の鋭い洞察力を通して、大胆リアルに鮮明化されていく。カタルシスともいえそうな解放感を突き抜け、爽快さまであるのです。不思議なくらいダークなのに、、、。 桐野夏生さんは驚くべきパワフルな物語を書く人ですね。そうとう精神の強い人に違いなく、人一倍繊細な人でもあるのでしょう。 頷きながらいたたまれない思いで、女として生まれてしまった自分の運命を嘆きたくなる――反面、子孫繁栄本能に振り回される、男でなかったことを喜びたくもなる―――。 どちらにしても、人間の内面に蠢く闇がはっきりと姿を見せます。 作家・桐野夏生が、言葉にして聞かせてくれたおかげで救われた人は、きっと少なくないような気がする。 心もとなかった自分の導き出す真理を、力いっぱい肯定してくれた。恐ろしく生々しいのに、不思議な救いのある小説だと思います。 全編が、それぞれの立場から語る、告発文のような構成でした。 「わたし」の言葉に、悪意のある嘘が交じっていることを、妹ユリコの日記から知り、和江の日記から知り、第三者の言葉から知っていく。 重なるほどに、はっきり見える矛盾点は、読者が均していくごとに、より事実がクリアになっていくのでした。 長いですが、かなり良いのでおすすめです。 泉鏡花文学賞を受賞。鏡花が好きな、三浦しをんさんらしいチョイスだな、と思ったりするのでした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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