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テーマ:■ムービー所感■(484)
カテゴリ:日本映画
冒頭だけ・・・のはずが、仕舞まで一気に観てしまった。 奈良を舞台に作品を撮ることで知られる、河瀬直美監督作品。懐かしい田舎の情景は、いやおうなく心に沁みて、切ない気持にさせる。 陰影は美しく、自然も美しく、人々の営みが愛おしい。 あざといほどの上手さを感じながら、素直に身を委ねられるのは、同じように物を見ている共感からかもしれない。 小さな過疎の村を舞台に、とある一家の人間模様を瑞々しいタッチで描いていく―――。 奈良県南部の山間にある小さな村。 古い屋敷に、当主の孝三(國村)とその妻の泰代、ふたりの子ども・みちる(尾野)、母の幸子、孝三の姉が残していった栄介の、5人が暮らしていた。 孝三は携わっていた、村の鉄道工事が中止され、無気力状態だが、家族は仲睦まじく暮らしているはずだった・・・。 しかし、ある日、突然孝三が失踪してしまい、そのまま遺体となって発見される。 残された家族は戸惑い苦しみの果てに、それぞれの道を生きはじめるのだったが―――。 過疎化によって引き起こされる、一家の悲劇は、言葉少なく淡々としているのに、じんわりと響いてくる。 物静かで優しい両親と祖母、無邪気だったみちると栄介。なんにも問題なんて起こりそうにない、幸せな一家に悲劇が降りてくるとき、始めて、苦悩のない人生なんてないことを思う。 素朴な人たちが、どんなふうに、喪失感から立ち直り、新しい道を歩み始めるのかがみどころ。 父が自殺したとはいえ、思春期を迎えたみちるの、一番の悩みは 恋 だ。 義理の兄に対する、仄かな恋慕。彼女の初々しい姿が、あまりにも瑞々しく切ない。 こういうところは、女流監督ゆえの巧さか。 歳の離れた栄介は、みちるの思いに気が付きながら、あくまでも優しく見守るのだけれど、、。 憔悴した母は、村を出、実家に帰ることを決意する。 それはみちるにとって、大好きな栄介や、愛する故郷との別離を意味しているのだった。 少女の成長を通して、喪失と再生を見つめ、同時に、過疎化の進む小さな村へのノスタルジーを描いていく。 それは、私たち日本人の感覚にすごく近しいもので、たぶん欧米人には魅力的に映るなにか。 カンヌでカメラドール(新人監督賞)を受賞したのは、そういう点からでもあると思う。 ただそれらを、淡く幻想的に、時として情感たっぷりに描く河瀬監督は、才能ある人に違いない。 この10年後の『殯の森』も、日本的な感覚で、アニミズムの世界が描かれていて、なかなか好きだった。 言葉にすることの難しい、私たちの曖昧で微妙な感情のニュアンスを映画にできる監督は、いまとても少ない気がする。 監督・脚本/ 河瀬直美 音楽/ 茂野雅道 出演/ 國村隼 尾野真千子 和泉幸子 柴田浩太郎 神村泰代 (カラー/95分) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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