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2010.03.13
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カテゴリ:日本映画

 黒澤明が、敬愛するドストエフスキーの名作『白痴』を、豪華キャストで映画化した、美しくも激しい愛憎劇。
完成当初4時間25分の長尺は、松竹の意向によって大幅にカットされ、166分バージョンとなった。
怒った黒澤の「切るならフィルムを縦に切れ!!」の明言は、この時のもの。

ドストエフスキーの『白痴』も、黒澤の『白痴』も有名な作品なので中身は割愛してしまおう。
その代わり、感じたことを幾つか。


 <あらすじ> 戦時中のショックで白痴になったと自ら語る純真無垢な青年、亀田欽司(森)。彼は札幌へ帰る途中で無骨な男、赤間伝吉(三船)と知り合い、仲良くなる。その赤間は有力政治家の妾、那須妙子(原)に熱を上げていた。亀田も妙子の写真を一目見て心奪われる。一方、そんな無邪気で美しい心を持つ亀田のことを、親類の娘・大野綾子は誰よりも深く理解し、そして心惹かれていく―――。


 166分の映画は長い。でももっと長くても見られただろうと思うくらい、おもしろい映画だった。
だから、いかにも編集されたとわかる、繋がりの悪い箇所に遭遇するたび、残念に思う。
ドストエフスキーの原作は読んでいないのではっきりとは言えないが、あらすじを読むと、戦後の札幌を舞台にしただけで、概ね原作に忠実な展開となっているようだった。

白痴の亀田を演じた森雅之が、とにかく素晴らしい!! それだけで、もう満足してしまった。
観ながら思い出していたのは、『天井桟敷の人々』のジャン・ルイ・バローと、『ナスターシャ』の5代目坂東玉三郎。
この三者に共通するものが、たしかにある気がする。
白痴のムイシュキン(亀田)を演じることができるのは、稀有なわずかな男優たちしかいないのではないか、と。
ジャン・ルイ・バローのバティストは白痴ではなかった、でも彼の純粋さや無垢な魂は、ムイシュキンと共通したものを持っていた。

hakuchi2_p1.jpg


原作のナスターシャをもじった那須妙子役は、名女優の原節子。彼女の存在感と美貌と演技力は、いつも驚かされているけれど、今回はまたもの凄い。
神々しく、妖艶で、怖いくらい。
一目会って、亀田の純真さを知り惹かれていくのに・・・・・・自らは赤間のものとなり、大野綾子と結ばれるように手を回してしまう。
ラスト、亀田を巡って起る、妙子と綾子の対決は、まさに壮絶極まりなく。いま、これほど手に汗握る女同士の睨み合いを映画で観ることは、もうほんとうに叶わなくなってしまったと思う。
すごい。
真黒いコートを羽織った妙子は、『サンセット大通り』のノーマか! エド・ウッドのヴァンパイラか! というほどに、圧倒的な存在感なのだった。
ストーブから吹き上げる炎や、蝋燭のゆらめき、窓の外の吹雪、ありとあらゆるものがドラマチックで絵になり、いい意味で劇的なのだった。

どこまでが札幌ロケだったのかはわからないが、まだ蒸気機関車が走っていた時代、愛すべき札幌の街の、一時代を見せてくれる映画としても、また貴重な作品だ。
同じ黒澤映画の、戦後間もない東京を捉えた『素晴らしき日曜日』のように。


●  ●  ●  ●


監督/ 黒澤明
原作/ ドストエフスキー 「白痴」
脚本/ 久板栄二郎  黒澤明
撮影/ 生方敏夫
音楽/ 早坂文雄
出演/ 原節子  森雅之  三船敏郎  久我美子  志村喬

(モノクロ/166分)





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Last updated  2010.03.14 19:39:38
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