|
テーマ:■ムービー所感■(484)
カテゴリ:日本映画
黒澤明が、敬愛するドストエフスキーの名作『白痴』を、豪華キャストで映画化した、美しくも激しい愛憎劇。 完成当初4時間25分の長尺は、松竹の意向によって大幅にカットされ、166分バージョンとなった。 怒った黒澤の「切るならフィルムを縦に切れ!!」の明言は、この時のもの。 ドストエフスキーの『白痴』も、黒澤の『白痴』も有名な作品なので中身は割愛してしまおう。 その代わり、感じたことを幾つか。 <あらすじ> 戦時中のショックで白痴になったと自ら語る純真無垢な青年、亀田欽司(森)。彼は札幌へ帰る途中で無骨な男、赤間伝吉(三船)と知り合い、仲良くなる。その赤間は有力政治家の妾、那須妙子(原)に熱を上げていた。亀田も妙子の写真を一目見て心奪われる。一方、そんな無邪気で美しい心を持つ亀田のことを、親類の娘・大野綾子は誰よりも深く理解し、そして心惹かれていく―――。 166分の映画は長い。でももっと長くても見られただろうと思うくらい、おもしろい映画だった。 だから、いかにも編集されたとわかる、繋がりの悪い箇所に遭遇するたび、残念に思う。 ドストエフスキーの原作は読んでいないのではっきりとは言えないが、あらすじを読むと、戦後の札幌を舞台にしただけで、概ね原作に忠実な展開となっているようだった。 白痴の亀田を演じた森雅之が、とにかく素晴らしい!! それだけで、もう満足してしまった。 観ながら思い出していたのは、『天井桟敷の人々』のジャン・ルイ・バローと、『ナスターシャ』の5代目坂東玉三郎。 この三者に共通するものが、たしかにある気がする。 白痴のムイシュキン(亀田)を演じることができるのは、稀有なわずかな男優たちしかいないのではないか、と。 ジャン・ルイ・バローのバティストは白痴ではなかった、でも彼の純粋さや無垢な魂は、ムイシュキンと共通したものを持っていた。 原作のナスターシャをもじった那須妙子役は、名女優の原節子。彼女の存在感と美貌と演技力は、いつも驚かされているけれど、今回はまたもの凄い。 神々しく、妖艶で、怖いくらい。 一目会って、亀田の純真さを知り惹かれていくのに・・・・・・自らは赤間のものとなり、大野綾子と結ばれるように手を回してしまう。 ラスト、亀田を巡って起る、妙子と綾子の対決は、まさに壮絶極まりなく。いま、これほど手に汗握る女同士の睨み合いを映画で観ることは、もうほんとうに叶わなくなってしまったと思う。 すごい。 真黒いコートを羽織った妙子は、『サンセット大通り』のノーマか! エド・ウッドのヴァンパイラか! というほどに、圧倒的な存在感なのだった。 ストーブから吹き上げる炎や、蝋燭のゆらめき、窓の外の吹雪、ありとあらゆるものがドラマチックで絵になり、いい意味で劇的なのだった。 どこまでが札幌ロケだったのかはわからないが、まだ蒸気機関車が走っていた時代、愛すべき札幌の街の、一時代を見せてくれる映画としても、また貴重な作品だ。 同じ黒澤映画の、戦後間もない東京を捉えた『素晴らしき日曜日』のように。 監督/ 黒澤明 原作/ ドストエフスキー 「白痴」 脚本/ 久板栄二郎 黒澤明 撮影/ 生方敏夫 音楽/ 早坂文雄 出演/ 原節子 森雅之 三船敏郎 久我美子 志村喬 (モノクロ/166分) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2010.03.14 19:39:38
コメント(0) | コメントを書く
[日本映画] カテゴリの最新記事
|