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テーマ:■ムービー所感■(484)
カテゴリ:日本映画
川端康成の『山の音』を、成瀬巳喜男監督で映画化した文芸もの。 <日本人の心情の本質を描くことに長けている> という川端作品を、まだ一度も読んだことがないので、内容にちょっと驚かされてしまった。 夫の両親と4人で暮らす菊子は、なかなか子宝に恵まれない以外に何不自由なく暮らす、貞淑な妻であり、良き長男の嫁だった。 ところがある日を境に、夫・修一が外に女をつくり、両親と菊子の心労は募っていく・・・・・。 むかしの日本人女性らしく、菊子はだまって静かに耐えている。 その苦しみを一番理解して、事態を動かそうとするのが義理の父・信吾なのだけれど、彼の胸中には複雑な想いがあるのだった。 老境に差しかかった父の、長男の嫁・菊子に対するプラトニックな情愛――――。 じつにさり気なく、奥ゆかしく描いてはいるものの、信吾の献身的な労わりや視線に、何気に心がざわざわとしてきてしまう。 一方、夫の修一には腹が立ちっぱなし。威張った態度や、菊子に対する冷酷さがイヤ。 演じているのは上原謙で、『有りがたうさん』『めし』では爽やかな優男役が似合っていたはずだったが、本作のコクのない亭主関白役には、なにげに虫唾が走ってしまった。 終盤、別離へと物語はむかっていく。 菊子は信吾のすすめで、しばらく実家へ帰ることに決めたのだ。義父の優しい気遣いに感謝しつつ、別れに涙する菊子。「便りをくれ」という信吾の本心が切なかった。 修一よりもお似合いに映る、信吾と菊子。肝心の修一の心がちっとも伝わらないのは、ふたりほどに心理描写を丁寧に描かれていなかったからだろう。 主人公はあくまでも、父・信吾と、嫁・菊子なのだった。 上原謙と、父親を演じた山村聡では、なんと山村聡のほうが一歳若かったのだそうだ。 老けメイクをして信吾を演じていたからこそ、菊子(原節子)とのツーショットがやけに艶っぽかったのね。 夫婦の物語だと思って観ると、思いがけない内容に驚かされるかもしれない。川端康成が、ちょっと読んでみたくなったなぁ。 ちなみに、前出の成瀬監督作『めし』では、川端康成が監修を務めていた。 監督/ 成瀬巳喜男 原作/ 川端康成 脚本/ 水木洋子 出演/ 原節子 上原謙 山村聡 (モノクロ/95min) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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