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テーマ:読書(8606)
カテゴリ:本(編集)
失踪した夫を思いつつ、恋人の青茲と付き合う京は、夫の日記に「真鶴」という文字を見つける。夫は「真鶴」にいるのか? “ ついてくるもの ”にひかれて、京は度々「真鶴」を訪れる――――。
最愛のひとだったはずの夫が、突然失踪して、ひとり娘と母と、女ばかり3人残された主人公の、喪失と再生の物語。 やはり、川上弘美の世界は不思議ちゃんだ。 淡々としているのに、ときどき濃厚。まっすぐな切なさはないれど、じんわり沁む至極にっぽん的な感覚がたまらない。 すぴりちゅある・わーるど・びゅー。 喪失感漂うなか、主人公・京(けい)についてくるもの。 それはまさしく幽霊なのだけれども、じつはもうひとりの自分だったり、“ 作家自身 ”であったりする。 その“ ついてくるもの ”に導かれて、心神耗弱気味の主人公が、ありのままを受け入れ自然治癒していく。 女ばかりのなかで、夫を失った京と、もう何年もお付き合いしている妻子持ちの青茲(せいじ)との、会話や存在の関係性がおもしろい。 不倫しているわけで、じつはけっこう、どろどろしたことを描いているはずなのだけれど、川上節にかかると、透明で純粋な恋愛劇へと変わってしまう。 生きていくために必要不可欠な感情――――そんな強い絆をさらりと描いてみせる。 物語もさることながら、じつはわたしには、川上ワールドに登場する言葉が大好きだ。 多くの現代人が忘れてしまって使わないような、古風な語彙の数々。 それらは柔らかくて、さわりよくて、心地よく響く。きっと作者が意識して使っている、言葉遊びのようでもあるのだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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