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行きかふ人も又

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2010.09.05
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カテゴリ:日本映画

 小津安二郎監督が、1934年に原作・監督した『浮草物語』を、自身でリメイク。


 旅回り役者一座の座長が、かつて自分が子どもを生ませた女がいる町へ興行にいくが、現在の女である女優が嫉妬して、妹分に息子を誘惑させようとする・・・。成長した息子との情愛や、女の嫉妬心を描いた傑作。


 町に降り立ってからというもの、座長は行き先も告げずに姿を消して、どこに居たか問うても、的を得ない。女優は、一座の古株から、むかしの女がこの町にいることを聞かされ、嫉妬に狂うのだった。

自分の生ませた実の息子に再会した座長が、あまりにも鼻の下伸ばしていとおしむので、女優が気の毒でならなくなるほど。残酷な態度、冷淡すぎるほど容赦のない、でも情に篤い男を、二代目 中村鴈治郎が見事に演じている。
役者としての厳しさには、これでもかというほどのリアリティ。名役者と名女優の、火花散る演技合戦が何よりすばらしい。

座長が入り浸る、むかしの女が営む居酒屋に、突如乗り込んだ女優。座長は女優を表へと連れだし、烈火のごとく罵倒する。負けじとなじる女優に、さらに毒づき、両者一歩も譲らない諍いが、大雨のなかではじまる。 それはそれは、ものすごいシーン!
このようにガツンとくる作品は、最近はなかなか作られない。古き良き日本映画の時代に思いを馳せてしまった。

ukikusa.jpg 20070829-floatingweeds3.jpg 


女優に頼まれ、嫌々、息子を誘惑した妹分(若尾)だったが、いつしかふたりは本気で愛し合うようになっていた。しかし、それを知った座長は、当然、猛反対する。
堅気で頭脳明晰な我が子が、旅回りの女と結ばれるなんて、もっての他―――役者としての誇りをもっていながら、堅気でないことを呪うような、座長の姿が悲しい。
自分とはまったく別の人生を歩んでほしいと願っていたのに、すべてを捨ててでも彼女と一緒になりたいと言いだした息子に、座長は怒り戸惑い、ふたりは駆け落ち同然の覚悟で逃げるのだが・・・。本気ゆえに町へと戻り、見かねた家族が、一緒に生きていく道を見つける。

ラストには、悶着が元で、ついに一座解散の時が訪れてしまう。役者の面々は、離散を悲しみながらも新しい道をいくなか、座長と女優はいまだ不仲なまま、行く道を決めかねていた。
座長は、役者としての生き方を捨てることができず、愛する息子に別れを告げ、また旅に出る。そして、絶好のタイミングで、女優と駅で巡り会う―――再び腐れ縁を結ぶラストシーンが、絶妙な後味を残す。
地に足のつかない旅回り一座の役者たちは、とても堅気とは縁遠い。庶民にウケのいい娯楽芝居を打ち、町から町へ、まさに浮草。ペーソス漂う人間模様がすばらしかった。


†   †   †


監督/ 小津安二郎
脚本/ 野田高梧  小津安二郎
音楽/ 斎藤高順
出演/ 中村鴈治郎  京マチ子  若尾文子  川口浩  杉村春子  笠智衆

(カラー/119分/日本)






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Last updated  2010.09.08 08:54:09
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