フランスの素朴派の画家、ルイ・セラフィーヌ
(1864~1942)を、この映画で初めて知った。
素朴で力強く、絵の中の植物は蠢いて見えるほ
ど生命力があふれている。
神の啓示を受けた彼女は、貧しさのなかで、自然
から絵具となる材料を集めて、独自の作風で絵を
描いた。
偶然のいたずらが、セラフィーヌとドイツ人画商を
引き合わせたことで、彼女の運命は変わっていっ
たのだった。
画商のヴィルヘルム・ウーデは、ピカソやルソーを
見出したので有名な人。
家政婦として彼の家に通っていたセラフィーヌの絵を、
偶然目にしたウーデは、すっかり惚れこんでしまい、
手当たり次第に買い取っては、世に出るように尽力するのだが――。
アウトサイダー・アーティストと呼ばれる人たちが、果たして芸術家として成功することが幸せな
のかは、わからない。
生きるためには製作せずにはいられなかった――そんな生の芸術は、きっと他の作品群とすこし
違うのかもしれないから。
セラフィーヌのように、芸術活動が精神バランスを保つ役割を果たしている場合、有名になることで
崩れていくなにかが、あるのかもしれない。
木々と語らい、草花を愛したセラフィーヌの孤独な製作活動は、時代に翻弄されながらも、
ウーデの力添えで続いていく。
絵は売れはじめ、次第に有名となり、まとまったお金を得られるようになる。
しかし貧しさから一転、富を得たセラフィーヌは、こころの均衡を崩し、扱いを知らぬお金に身を滅ぼし、
次第に精神を病んでいってしまう・・・・。
敬虔さと絵に対する野心と、無垢であることと富むことと。
そぐわない事態が悲しくて、ひとり精神病院でその生涯を終えたというセラフィーヌの人生が切ない。
その絵は今も、素朴派として人々の目に触れ、美術史に名を残してはいるけれども、はたして天国
の彼女は喜んでいるだろうか。
ウーデのおかげで素晴らしい芸術は世に出た。しかし、セラフィーヌが自然界から離された精神病院で
人生を終えたことが、運命とはいえ、悲しいことのように思えてならなかった。
監督 マルタン・プロヴォスト
脚本 マルタン・プロヴォスト マルク・アブデルヌール
撮影 ロラン・ブリュネ
音楽 マイク・ガラッソ
出演 ヨランド・モロー ウルリッヒ・トゥクール アンヌ・ベネント
(カラー/126min/フランス=ベルギー=ドイツ合作)