十字架称賛の祝日の答唱詩編
【十字架称賛】59 神のわざを思い起こそう【解説】 詩編78はヤコブ物語を始まり(1-8節)として、出エジプトと荒れ野における40年間の彷徨(12-55節)を中心に、最後はダビデの統治に至る(56-72節)イスラエルの歴史を歌っています。申命記32章の「モーセの歌」に似ていることから、この詩編ができたのは、申命記が書かれた南ユダ王国の末期=紀元前600年頃、あるいは、北イスラエル王国の滅亡(紀元前722年)が読まれていないことから、それ以前とも考えられています。いずれにしても、詩編としては、非常に古い部類に属していると言っていいでしょう。マタイ福音書の13:35では、この詩編の2節を引用して、イエスが語るたとえは、この詩編の預言の実現と解しています。 答唱句はこの詩編全体の要約です。イスラエルの歴史は、神が働きかけた救いの歴史です。見方を変えれば、イスラエルの歴史は、神のはからいに背いた罪の歴史でもありましたが、それでも神は、ご自分の宝の民を見捨てることなく、絶えず、回心へと導いておられたのです。その、救いの歴史を思い起こすようにこの詩編は促しています。その「起こそう」は、前半の最高音であるHと、「起こそう」の五度の跳躍下降で、この呼びかけが強められています。後半、「力ある」では、「ちから」の六度の跳躍と、「ちからある」での最高音のCis、バスも最高音のA(ラ)で、歴史全体に働かれる神とその力とが現されています。また、前半と後半、都合二回出てくる「わざ」は、旋律でE(ミ)-A(ラ)という同じ音型で統一され、神の働きを意識させています。 詩編唱は、第一小節から第二小節、第二小節から第三小節、の旋律はいずれも同じ音で続き、アルトは半音上がり、精神的緊張と、持続感を高めています。【祈りの注意】 詩編唱は、ことば数も多く、田畳み掛けるように歌います。答唱句も、「神のわざを思い起こそう。力ある不思議なわざ」ということばどおり、力強く、きびきびと歌いましょう。とは言え、いつもの注意ですが、乱暴にならないように、また、祈りの基本である、レガートを心がけてください。「ちからある」は答唱句で最も高い音ですが、ことばどおり、力強さをもってください。 詩編唱は、上にも書いたように、ことば数が多く、救いの歴史を叙述します。だらだらと歌っていると、聞いている会衆も疲れるばかりか、何を歌っているか、分からなくなります。淡々と、畳み掛けるように、語りましょう。今日の詩編唱は、1abと5abです。詩編の節の設定が、複雑ですから、その点もしっかりと確認しておいてください。括弧aは、詩編唱の最高音でもあり、もう一度、詩編唱の最初に戻るので、力強く、歌いましょう。括弧bは、詩編唱の終わりでもあるので、やや、落ち着いて終わりたいものです。 十字架称賛のテーマは、「挙(上)げられる」です。イエスがあげられるのは、十字架に挙げられることと同時に、天に(神の右の座に)挙げられることです。これは、パウロの手紙にも見られるもので、伝統的な教会の神学です。このようなことを詳細に研究する必要はないかもしれませんが、人間的な見方では、一見矛盾する二つの「挙げられる」は、神の秘儀として、救いの歴史には欠かせないものなのです。【オルガン】答唱句も詩編唱もきびきびと歌いますから、まず、オルガンの前奏がきびきびとしていなければなりません。技術的なことですが、♯が3つついていますから、黒鍵から白鍵には、指を滑らせることや、他にも、持ち替えなどをしっかりと考えてください。ストップは、明るいフルート系の8’+4’、会衆の人数によっては、プリンチパル系のストップを加えてもよいでしょう。詩編唱の部分も、持ちかえを早め早めに行いましょう。また、詩編唱の部分は、先唱者の声量によっては、4’も加え、Swell の扉をだんだんと開けてゆくようにしてもよいでしょう。《この記事は、「典礼聖歌研究工房 アトリエおおましこ」のサイトからの転載です。》