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2005.11.11
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カテゴリ:答唱詩編
聖書カンタータ三部作
『イザヤの預言』
『預言書による争いと平和』
『ヨハネによる福音』

 今回は、これら聖書カンタータ三部作精神と手法について記述したいと思います。これら聖書カンタータ三部作には、いずれにも
ピアノ伴奏の場合には「混声合唱とピアノのための」
オーケストラ伴奏の場合には「混声合唱と管弦楽のための」
という表題がついています。このことから、これら聖書カンタータ三部作は、単なる合唱曲ではなく、ピアノやオーケストラなどの楽器の部分にも、テキストに関連したメッセージが語られていることが分かります。多くの場合は、ピアノの伴奏で演奏されますが、ピアニストの方も、これらのテキストが語ろうとすることを、ぜひ学んでいただきたいと思います。

 さて、これらの曲を歌ったこと、あるいは、棒を振ったことのある方は分かると思いますが、これらの曲の合唱の部分には、シンコペーションが全く用いられていません。実は、作曲者高田三郎氏の『典礼聖歌』でも、シンコペーションは全く使われていません。これは、『典礼聖歌』で、その手法と精神を取り入れたグレゴリオ聖歌の場合、「切分音というものは落ち着きがなく、祈りの音楽としてふさわしくないため、ソレム唱法では避けられて」(『典礼聖歌を作曲して』191ページ)いるからです。ですから、このことから考えられることは、これら聖書カンタータ三部作は、単なる合唱曲ではなく、合唱曲という音楽形式を使った「祈り」であるということです。これらの曲が、「祈り」としてふさわしく歌われ、人々のこころを揺り動かすときには、聖霊がその人々の口を通して働いていると言えるでしょう。

 さて、高田三郎作曲の『典礼聖歌』も多くの合唱曲も、小節線の後は、いわゆる強拍ではなくテージス(休息)、小節線の前のアウフタクトは、弱拍ではなくアルシス(飛躍)です。これらについて、よくたとえられるのは、ゴムボールを上に投げ上げて、一番高いところに上がったときがアルシス(飛躍)、手に戻ってきたときがテージス(休息)といわれます。
 これでは、よく分からないかもしれませんので、他にいくつかのたとえをあげたいと思います。ひとつは、回転木馬(メリーゴーランド)の木馬が、一番高く上がったときがアルシス(飛躍)、一番下がったときがテージス(休息)、水の上に石を跳ねさせたとき、一番高く跳ね上がったときがアルシス(飛躍)、水の上で跳ねたときがと考えればよいでしょうか。英語では、強拍をダウン・ビート、弱拍をアップ・ビートと言いますが、この、ダウンとアップが、まさに飛躍休息をよりよく表していると言えるでしょう。
 この手法は、高田氏が日本語を生かすものとして、自らの合唱曲の作曲に取り入れたものですが、日本の民謡の伝統からもふさわしいものです。
 
 これについては、服部龍太郎氏が、著書『日本の民謡』(角川新書186)の中で次のように指摘しています。「日本の民謡を観察すると、ほとんどがいつの場合でもアクセントの弱い音からうたいだし、第二音になってようやくアクセントを強めるということをしている。すなわち、弱起のかたちをとっているのであって、これは、日本語のアクセントにふかいつながりがあるものとおもわれる。この一事は音楽にたずさわるひとはもちろんのこと、音楽に関係のない日本人でもよくこころにとめておいてもらいたいことである。日本民謡がアップ・ビートの弱拍からはじまるということはじつに徹底したものであって、百曲中の九十曲中まではそうである。」(同書206-207ページ)つまり、日本の伝統音楽のひとつ民謡では、アウフタクトから歌い始めるのが一般的だということです。これは、高田氏の『典礼聖歌』でも全く同様で、この点で、高田三郎氏の作曲は日本の音楽の伝統を踏襲していると言えるのです。
 ちなみに、日本の音楽がこの伝統から逸脱したのは、服部氏の指摘によれば、明治以降であり、「日本人自身が唄のうえではアクセントについてあまりにも無頓着であり、あまりにも大きいあやまりをおかしてきたことは、明治以来の小学唱歌とか軍歌を見ればよくわかるのである。」(同書211ページ)と指摘しています。そして、山田耕筰氏の作曲を上げ、「いずれも弱起からうたいだすようになっている。日本語の微妙なアクセントを音に生かそうとするならば、当然こうなるわけである。民謡はとっくのむかしから実行していることであるのに、その民謡をうたっている日本人の作曲家がこういうことを無視していたまでのことである。民謡が教え、民謡が暗示するところのものはじつに大きいといわなければならない。」(同書213ページ)と、日本の作曲家の日本語の作品について批評しています。
 実際に、これら聖書カンタータ三部作や高田氏の合唱曲はもちろん、『典礼聖歌』を歌っていても、全く、自然に日本語が生かされていることが分かると思います。

 このように、聖書カンタータ三部作は、『典礼聖歌』と同様に、日本の音楽の伝統グレゴリオ聖歌の伝統を取り入れて生かした、「祈り」の歌なのです。

 
 





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Last updated  2005.11.11 20:01:34



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