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カテゴリ:答唱詩編
主の昇天の祭日の答唱詩編 112 主はのぼられた と 聖霊降臨の祭日の答唱詩編 69 神よあなたのいぶきを の二つは、答唱詩編の冒頭のページでも触れたように、相互に関連があるばかりではなく、ミサの式次第とも深く関連付けられています。そこで、この二つの答唱詩編については、一緒に詳しく書き記したいと思います。
まず、二つの答唱詩編を対比させながら、見てゆきます。 主はのぼられた の答唱句の旋律は、D(レ)から始まります。これは、ミサの式次第の構成音の中で最も低い音で、地を暗示しています。最後の音、H(シ)は、式次第では用いられない音で、天上の神の国を示唆します。一方、冒頭、「主は」で一旦低いH(シ)へ旋律は下がりますが、これは、高いH(シ)の、天上の神の国と対照的に、主が下られた、陰府を暗示します。この世から死の国に下られた主が復活して天の国に昇られたさまが、旋律で表されていないでしょうか。 神よあなたのいぶきを は、B(シ♭)から始まります。この音はミサの式次第の中では、「司祭の音」すなわち「奉仕者の音」と言い換えることができます。聖霊の発出は、父と子がわたしたちのために約束してくださった、いわば、神による奉仕です。答唱句の最初の音が、主はのぼられた の答唱句の最後の音であるH(シ)よりも、半音低いB(シ♭)からはじまるのは、神がわたしたちの方に一歩踏み出して、聖霊を遣わしてくださった、つまり、神がわたしたちのために奉仕してくださっていることを示しているといえましょう。「神がわたしたちのために奉仕する」というと恐れ多いような、あるいは、語弊があるように聞こえるかもしれませんが、たとえば、ドイツ語で、礼拝のことをGottedienst と言いますが、これは「神奉仕」という意味で、ここには、わたしたちが神に奉仕するという意味と神が人間に奉仕してくださる、という二つの意味が込められています。答唱句の最後は、主はのぼられたの最初の音と同じD(レ)で、主がのぼられた地の表に、聖霊が下ってきた様子が暗示されています。 このように、これら二つの答唱詩編は、これらが歌われる、固有の祭日や答唱句のことばのみならず、ミサの式次第や典礼季節といった、神学を背景にして作られています。もちろん、それを知らなければ歌えない、というものでもありませんが、祈りを深めるためには、助けになることではないでしょうか。 112 主はのぼられた 【解説】 詩編47は、詩編93や96-99と同じく、神の即位式、あるいは、契約の箱の行列の歌などで用いられたなど、学者によって解釈が分かれていますが、次の、詩編48とともに、神である主が全宇宙を治めておられることを歌った、王である神をたたえた詩編です。教会は、この詩編を、特に6節の「神は喜びの叫びのうちに、角笛の響きとともにのぼられた」を中心にして、キリストの昇天と結びつけ、主の昇天の祭日に歌ってきました。 答唱句は、まず、力強くバスとテノールの伴奏が、八分音符一拍早く始まります。上にも書きましたが、旋律はミサの式次第の旋律の最低音のD(レ)から始まり、上昇するための弾みをつけるように、あるいは、主が陰府に下られたことを象徴するかのように、一旦低いD(レ)に下降し、その後、喜びの叫びをともないながら最高音へと上昇してゆきます。「のぼられた」で、旋律とアルトが付点四分音符延ばす間、バスとテノールが八分音符一拍早く「よろこび」を歌いだし、しかも2度上がることで、上昇と喜びに弾みをつけています。「よろこびの」と「さけび」の間に、ソプラノとテノールでは八分休符があり「の」の助詞の表現と「さ」のアルシスを生かしていますが、同時に、アルトとテノールは休符分、早く「さ」を歌い始めることで、祈りの気持ちを継続させています。最後に、旋律は、最高音のH(シ)に達し、主が天(神の国)に昇られた様子を表しています。 詩編唱は、A(ラ)から始まり、一小節ずつ下降してきて、答唱句の冒頭の音=D(レ)に戻りますが、これは、弟子たちが、主が昇天されたオリーブ山からエルサレムへと降りてきた様子を象徴しているでしょう。 【祈りの注意】 解説にも書いたように、この答唱詩編は、主の昇天の祭日とばかりではなく翌週の聖霊降臨の祭日も考慮して作られています。 冒頭、旋律で八分休符になっているところにも、オルガンの伴奏がありますので、まず、このオルガンの力強い伴奏(主が力強く大地を踏みしめるような)をしっかりと聴き、その弾みを生かして、活き活きと歌い始めましょう。だらだらとした歌い方では、昇天(主が父の右の座に座られた)のよろこびがうせてしまいます。かといって、早すぎては、弟子たちから逃げるように聞こえてしまいます。指定速度を参考にしながら、答唱句の祈りにふさわしい速さにしましょう。途中の「のぼられた」で、わずかですが、いったん rit. してはどうでしょうか。ただし、次の「喜び」できちんと元のテンポに戻します。この場合、テンポを戻すところは、旋律の「よ」ではなく、バスとテノールが八分音符一拍早く始まるところであることを気をつけてください。ここで、きちんと戻さないと、どんどんテンポが遅くなり、祈りにしまりがなくなります。 答唱句の最後は「叫びのうちに」の「び」の途中くらいから rit. を始め、さらに、 dim. して、主が雲間に見えなくなった様子を表現したいものです。最後の答唱句は、さらに、これらをよく表現して、第ニ朗読や福音朗読ばかりではなく、聖霊降臨の答唱詩編、神よあなたのいぶきを にまで余韻が残るようにしたいものです。 詩編唱は、その内容と祭日のないようにふさわしく、力強く歌い始めましょう。そして、弟子たちがオリーブ山からエルサレムへ下りてきて、聖霊の派遣を待ち望むように、また、主の再臨を心の奥底で待ち望むように、わずかずつ音量を絞りますが、やりすぎにならないようにします。全体的には、mf の範囲内で行いましょう。音の良としては、力強く始まった詩編唱の終わりが、自然に答唱句の冒頭にバトンタッチできるとよいでしょう。しかし、詩編の精神的中心は、いづれの節も四小節目にあることを忘れないでください。つまり、精神的な力強さの頂点は、四小節目にあるのです。詩編を歌う方は、これらの、一見パラドクスに感じる表現を、しっかりと、よい祈りとすることができるように、この日の朗読全体を黙想してください。 最後に、何回も書いていますが、この答唱詩編は、聖霊降臨の答唱詩編と対になって作られていますから、この、答唱句の余韻が聖霊降臨の答唱詩編まで残るように、共同体全体がしっかりと準備をしたいものです。 【オルガン】 答唱句の手鍵盤はフルート系の’8+’4、ペダルは’16+’8でよいでしょう。最初のバスの音には重々しさが必要ですが、プリンチパル系やリード管ではバスの音が大きすぎてしまいます。答唱句の最後は、主が天に昇られたように、バスも高い音ですが最後までペダルを使いましょう。最後のG(ソ)もペダルで十分に上昇感を出すことができます。人数が多い場合は、手鍵盤の’2、ペダルの’4は使わず、いずれも、コッペル(カプラー)を用いて、Swell をつなげるとよいのではないでしょうか。 69 神よ あなたのいぶきを 【解説】 今日の答唱詩編で歌われる詩編104は、前の詩編103と同じく「創造」が主題となっています。また、はじめと終わりに同じ繰り返しのことばが当てられています。この詩編104は、ほぼ、創世記1章にある「創造物語」の順序に従って、神の創造のわざが述べられています。特に、31節は、諸物創造の後、神が言われたことば「神はそれを見て、良しとされた」(1:10他)に対応しています。その一方で、29節は、楽園物語における人間の創造(2:6、3:19)をも思い起こさせます。創世記1章2節を指す、この詩編の30節は、また、キリストの過越と昇天を通してもたらされた聖霊の派遣(ヨハネ14:15-31)=聖霊降臨によって始まった「新しい創造」と結び付けられて、この日の主題ともなっています。 ちなみに「創造」(ヘブライ語=バラー)と言うことばは、聖書では、必ず「主=神」が主語となっています。 再三再四書いているように、この神よあなたのいぶきをは主はのぼられたと対になっています。冒頭、旋律は主はのぼられたの最高音H(シ)より半音低いB(シ♭)から始まります。この音は、ミサの式次第では、司祭の音=奉仕者の音ですから、聖霊の発出は神がわたしたちのほうに歩み寄って=一歩降りて、奉仕してくださるものであること、神のいつくしみ深い被造物への配慮であることを表しています。伴奏の冒頭も、バスとテノールが省略されており、聖霊の派遣が、天からのものであることを伴奏でも表しています。 さて、旋律は徐々に下降し、最後は主はのぼられたの冒頭の音と同じD(レ)に降りて終わりますが、この音はやはり、ミサの式次第の最低音です。このD(レ)はバスの終止音でも同じ(旋律とは2オクターヴ離れています)で、これらは、神のいぶきである聖霊が、その派遣を約束された主がのぼられたのと同じ、地上に降りてきて、世界に広がってくださったことを表しています。 詩編唱は、ドミナント(支配音)であるA(ラ)を中心に、上下の音B(シ♭)とG(ソ)だけです。これは、あたかも「炎のような舌が・・・・・一人一人の上にとどまった」(使徒2:3)ことを思い起こさせ、また、暗示しています。答唱句も詩編唱も先の主はのぼられたと同じく、典礼暦年の流れを考慮して作られたものです。 【祈りの注意】 答唱句全体を聖霊が降りてくる様子を表すようにすることは、言うまでもないことです。最初の「神よ」は、しっかりとした呼びかけとしましょう。ただ、その後の「あなたの~」が、だらだらすると、答唱句全体のしまりがなくなりますので、ここは、冒頭より、やや早めに歌うつもりで入ってください。そのためには「あなた」の前の八分休符でこのテンポをとるようにします。この八分休符は、テンポをとる上でも「あなた」のアルシスを生かす上でも大変重要な八分休符です。以前にも書きましたが休符は音がないのではなく、ない音がある状態です。中間部分は、インテンポのまま祈りが進みますが、「地のおもて」で、バスが八分音符早く出るあたりから徐々に rit. して、おさめるようにします。特に、最後のバスは、聖霊の広がりと深みを表すような声で祈れれば、この祈りにふさわしいものとなるでしょう。 詩編唱は、聖霊の派遣・発出、キリストによる新しい創造を深く黙想できるように、準備してください。なお、詩編唱の1節の1小節目は「主なる神」と、5音節ですので、かなりゆっくりと入ってください。そして、次の2小節目の「あなたは~」から基本のテンポにすると、最初があわてて聞こえるようなことがありません。ただし、2小節目も1小節目と同じ速さにしてしまうと、詩編唱がだらだらとしてしまい、祈りのことばを黙想できません。 詩編唱の特に、3節目は、神ご自身が「作られたものを良しとされた」こと、わたしたち自身が神のみ旨を行うことができるように、また、わたしたちのすべてが、いつも、神中心であるようにと祈るものです。これはまた、マタイ福音書「神の前に貧しい人(霊において貧しい人)」で始まる「真福八端」と共通しています。主の復活を力強くのべ伝えた、初代教会の先達たちと同じように、わたしたちは、いつも、神中心、神だけがよりどころであるかどうかを、この詩編によって、あらためて振り返ってみる必要があるかも知れません。 【オルガン】 主はのぼられたと同じく、答唱句の手鍵盤はフルート系の’8+’4、ペダルは’16+’8でよいでしょう。最初のバスの音には重々しさが必要ですが、プリンチパル系やリード管ではバスの音が大きすぎてしまいます。人数が多い場合は、こちらも、手鍵盤の’2、ペダルの’4は使わず、いずれも、コッペル(カプラー)を用いて、Swell をつなげるとよいでしょう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2016.05.01 15:50:27
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