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2008/04/10
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カテゴリ:陰陽師大好き♪

突然ですが。。 「陰陽師」の小説を書いてみました♪
自分で小説を書くのは、昨年の「陰陽師 都の守り人」以来ですね。
あれは、長編で登場人物も「これでもかーー!」ってくらい、コアな人を出して来ましたけど、
今回はとってもシンプルなものです。
人間は晴明と博雅しか出て来ません(笑)
それに、陰陽師につき物の「鬼」や「怨霊」も出て来ません。
どちらかというと「番外編」「スピンオフ」という類かな。
晴明さんの意外な面や深層心理的な所に視点を当てて、書き上げてみました。
いっきに書いちゃったので、語彙とか少ないし描写もイマイチですが、読んで下さるとありがたいです。
それでも、一回の日記には入りきらない字数になったので、二回に分けてUPしますね♪



十五夜を明日に控え、乾いた夜空に冴えわたる十四夜の月を愛でながら、
晴明と博雅が濡れ縁で静かに酒を飲んでいる。
晴明の庭のススキが、そよと吹く風に優しく揺れる。
早くも秋桜がひとつ、ふたつと花を咲かせ、萩の小花が庭に彩りを添えていた。

ついこの前まで生ぬるい風だったのが、この頃はその中に、サッと冷たい風が遠慮がちに
入り込んで吹くようになってきた。

ふたりは何を話すでもなく、ただそれぞれ、庭を眺めつつ、十四夜の月を仰ぎつつ、盃を重ねてゆく。

晴明はいつものように背を柱にあずけ、片方の足を立てて、その立てた膝に杯を持った腕を置いている。
そんな崩した姿をしていても、この漢はどこかしら気品と妖しさが自然と漂うから不思議だ。

庭を見つめながら、晴明がふっと笑みをこぼした。
晴明らしからぬ優しい笑みに、思わず博雅が尋ねた。

  「晴明、何を笑うておる?」

晴明は庭をみつめたまま答えた。

  「出るのだよ。博雅。」

  「出る? 何がだ?」

晴明は何も言わず、優しい笑みをたたえたまま、垣根の一角を見ている。
何が出るのだ?と、博雅も晴明の見つめる垣根を窺うように見た。
すると、晴明が見つめていた垣根の下あたりがカサカと揺れたかと思うと、その隙間から目の
クリクリとした小さな生き物が顔を覗かせた。

  「来たな。」

晴明の顔がより一層、ほころぶ。

  「なんだ、あれは?」

博雅の声に驚いたのか、その小さな生き物が顔を引っ込めてしまった。

  「おいで。」

晴明がそういうと、小さな生き物が垣根の隙間からまた顔を出した。
クリクリした愛らしいその目に警戒の色はない。ただ、臆病なだけなのだ。
ビクビクしながらも、その生き物が小さな体を庭に滑らせた。
   
   「狸? 子狸か?」

出て来たのは、小さな体に対してシッポはフサフサと太くて、大きな目がなんともマヌケた顔の子狸だ。

だが、また博雅の言葉にビクッと体を強張らせて目をおどおどさせた。
晴明が安心させるように子狸に声をかけてやる。

  「案ずるな。この漢(おとこ)はお前を捕らえたりはせぬ。
   楽が好きでな、暇さえあれば笛を吹いておるのだ。
   そのような人間に悪いやつはおらぬ。 さぁ、こっちへおいで。」

子狸は晴明の言葉がわかるのか、少しずつ晴明と博雅のいる濡れ縁に近づいて来た。

   「晴明。お前、狸と話が出来るのか?」

   「まさか。そのような事は出来ぬさ。 相手が狐ならまだしも。」

狐!? 博雅はどぎまぎした。
晴明の薄く赤い唇が笑みをたたえて、艶然と輝いている。

子狸が晴明の言葉を理解しているかのような行動を起こす事も驚きだが、晴明の口から狐となら話が
出来るような言葉が飛び出すなど、それをどのように捉えればよいものか当惑した。
「安倍晴明は狐の子」という噂が、巷でまことしやかに囁かれているから尚更だ。

晴明は博雅がそんな事を考えているなぞと気にも留める風もなく、近寄って来た子狸に酒の肴のウルメを
与えている。
それにしても、晴明の目を細めたこの柔らかい表情はどうしたものか。
博雅は今まで、晴明のこんな顔を見た事がなかった。

だが、この子狸の愛らしい仕草や姿を見れば、それは当たり前のことかもしれない。
あの晴明でさえも、優しい笑顔を自然に浮かべてしまうほど、この子狸は屈託がなく、穢れを知らない
無垢な生き物なのだから。

   「晴明。この狸はどうしたのだ? なぜ、お前を怖れない?」

晴明は、今度は芋を子狸に与えながら博雅を見た。

   「五日ほど、前だったか。 門の前にこの子狸が倒れておってな。 足を怪我しておった。
    式神たちが、自らの身を削って(※)怪我を治してやったのだ。
    一度、逃がしてやったが、夜になるとここへ来るようになった。」

  (※ 晴明の式神は蛙や蛇、草木の精などが宿っている。)

   「どうやら、親とはぐれたみたいでな。 この地から動こうとせぬのだ。
    どこの山から下りて来たものか。」

そう言いながら、晴明は子狸に哀れみの視線を向けた。

   「それで、お前はこうして子狸の面倒をみておるのか。」

子狸は腹がふくれて満足したのか、庭にいる秋の虫を追いかけ始めた。
追いかけられる蟋蟀(こおろぎ)や飛蝗(ばった)は、おちおち鳴いてもいられず、一目散に
飛んで逃げる。
子狸は獲物を捕まえると、誇らしそうに晴明の方にクリクリの目を向けるのだ。
どうやら、食べる気はないらしい。
ただ、じゃれて遊んでいるのが面白いようだ。
晴明は、濡れ縁にゴロンと横になって、それを眺めている。

   「おい。すっかり、お前に懐いているようではないか。
    お前を親だと思っておるのではないか?」

博雅が半分、冗談交じりでそう茶化すと、

   「ふふ。。狐が狸の親か…? 笑えぬ戯言だな。
    では、お前は俺達に化かされてばかりになってしまうぞ?」

晴明は意地の悪そうな目をして博雅を睨む。
博雅は、晴明の口からまた「狐」という言葉が出て、何も言えなくなってしまった。
一体、どういうつもりでたびたび己を「狐」と関連付けて言うのか。

子狸は虫を追いかけるのにも飽きたのか、夜空に浮かぶ十四夜の月をジッと見上げている。
心なしか、寂しそうな佇まいに見えるのは、思い過ごしだろうか。

  「しかし、いつまでもここに置いておく訳にもゆかぬ。 まことの親を探してやらねばな。」

晴明は、子狸の様子を眺めながらそう言った。

  「探すと言っても、どこから来たのかわからぬのであろう? 宛はあるのか?」

  「うむ。 待っておるのだがな。 まだ何の便りもないのだ。」

  「待つとは? 何を待っておるのだ? 式神にでも調べさせておるのか?」

  「いや。 式神では役不足だからな。」

そう言った時、晴明の中で何かが閃いた。
急に身を起こすと、博雅にこう言った。

  「そうだ! 博雅。 お前がおった!」

  「なんだ、急に! 驚くではないか! 俺が何だって?」

  「笛だ。 お前の葉二。」

  「俺の・・葉二?」

  「あぁ。博雅。 葉二を吹いてくれぬか?」

晴明にそう言われて、何が何やらわからないまま、博雅は素直に応じて葉二を吹き始めた。

透き通った博雅の笛の音が、澄んだ空気に溶け込んで天空に吸い込まれてゆく。
子狸は「くぅん」と鼻を鳴らして、月夜を仰いでいる。

どのくらい刻(とき)が経ったであろうか。
十四夜の月が中天にさしかかった頃、遥か遠くの彼方から鼓の音が「ポォーン」と風に乗って
聴こえて来た。
その鼓の音は、時折、消え入るようになっては、すぐ傍で響いているようにも聴こえるから不思議だ。

晴明は耳の奥でその鼓の音を確かめるように、目を閉じて聴いている。
子狸も小さな耳をそばだてて、鼓の音を手繰り寄せているようだ。 何かを思い出すように。

ふいに鼓の音が聴こえなくなった。
それと同時に博雅の笛の音もやんだ。

  「晴明。 どこかで鼓が鳴っておったな。」

  「あぁ。 上賀茂あたりの山か。」

ふっと、庭を見ると、いつの間にか子狸の姿が消えていた。

  「あれ? あいつ、いつの間にいなくなったのだ?
   これでは、親に会わせてやれるかわからぬな。」

博雅は半分、呆れながら呟いた。

  「博雅。 明日の夜、もう一度、来てくれぬか? 一緒に出かけてもらいたい所がある。」

晴明のいつにない真剣な物言いに、自然と博雅は頷いているのだった。



「その弐」に続く





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最終更新日  2008/04/10 11:12:58 PM
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