1357963 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2008/10/02
XML
カテゴリ:陰陽師大好き♪

つきうさオリジナル小説「陰陽師」第三弾! ようやく、ブログにUP出来る状況になりました。
タイトルは、『陰陽師 吉祥果』です。吉祥果って何ぞや?それは、話の途中で出て来ますので、今は内緒♪

前作2作とは、出だしも終わり方も違う形になってます。
何だかいろいろ手直ししたので、一貫して筋が通ってるのかどうか自分じゃわからなくなって
しまいました~。 もし、「?」と思われたなら、ごめんなさいね。

お話は「第四章」までありますが、楽天ブログの文字制限の都合でもっと細かく分割してしまうかも知れません。
読みにくかったらごめんなさい。

よろしければ、感想をお聞かせ下さいませね♪



   「つうぅぅ・・・」

いつものように濡れ縁で横になっていた晴明は、思わず顔をしかめて手に持っていた石榴(ざくろ)の枝を放した。
どこまでも続くかと思われる秋らしい高い空に、茜がかった鱗模様の雲が浮かぶ夕暮れ刻(どき)の出来事だった。
晴明の、男にしては白過ぎる指先の腹から、ぷっくりと赤い血が盛り上がっている。
その余りにも鮮やかな血色は、晴明が人ではないと思わせるに足る様相を呈していた。

晴明は傷ついた指先を、その血色に負けないくらい紅い色をした薄い唇に含んだ。
   「・・・血の味か。。石榴の実もこのような味であったな。」
晴明はふっと笑い、ひとりごちた。

   「晴明さま、いかがなされました?」
庭で石榴の実を摘んでいた蜜虫が心配そうに聞く。

   「石榴の棘に触れてしまったのだ。枝を手折った時にすぐに水に差してやれば良かった
    のだが、余りにも枝ぶりが見事だったので愛でておったらこの有り樣だ。
    石榴の機嫌を損ねたらしい。」
晴明は軽く笑いながら蜜虫に指先を見せた。

   「まぁ。こんなにも脈打って・・・  今、薬草をお持ちいたします。」
そう言って蜜虫が慌てて奥へ行きかけるのを晴明が呼び止めた。
   「蜜虫、その前にこの石榴の枝を水に差してやってくれ。
    さすれば、石榴の怒りも少しは収まろう。」

蜜虫は晴明に言われたとおり石榴の枝を拾い、棚に置いてあった花器に水を入れ、そこに枝を差してやった。枝には石榴の実がひとつ成っている。こうして水に差してやれば、また生き返るであろう。
蜜虫はそのまま奥の部屋へと薬草を取りにゆく。

夕焼け色に染まった蜻蛉(とんぼ)達が、高い空でゆらゆらと風に任せて羽根を泳がせている。
晴明は再び濡れ縁に横になり、花の蜜を求めて飛び回る蜂たちの様子を眺め、草陰で鳴く虫の音に耳を傾けた。
その晴明の背後で…

蜜虫が先ほど生けた石榴の枝が、風もないのにふるふると揺れ、音にならない声を囁いている。

 〈ぎちぎちぎちぃ… 晴明の血ぢゃ。。狐の血ぢゃ。。半妖の血ぢゃ。。ぎちぎちぎちぃ…〉

つるべを落としたように、足早に陽の落ちる秋の夕暮れ。
これから始まる怪異を物語るように、晴明邸の庭先に鬼が好く暗闇が迫って来た。



すっかり陽が落ち、夜風が心地よくなった頃、博雅が晴明と秋の夜長を楽しもうと梨の実を携えてやって来た。

   「晴明、おるか。 うまそうな梨を管弦仲間から貰ったのでな。
    お前と楽しもうと思い、こうして持ってきた。」
そいうと博雅は、出迎えた蜜虫に竹篭(たけかご)に入った梨を渡した。
竹篭が博雅の手から蜜虫の手へと渡るだけで梨の甘い香りが辺りに漂う。

濡れ縁で酒を飲んでいた晴明は
   「ほおぅ。これはまた見事な梨だな。ありがたく頂戴するとしよう。」
そう言って博雅を歓迎した。

梨を受け取った蜜虫が奥へと下がって行く。

   「博雅、まずは一献。」
晴明が酒の入った瓶子を博雅に差し出す。
   「おう。」
博雅は晴明の前に座り、杯を受ける。
晴明についでもらった酒を博雅がうまそうに一口飲んだ。

   「うん。うまいなぁ。秋になったせいであろうか。酒もまろやかになった気がするな。
    おっ。これは石榴の実か? まるで燃えるような紅色をしておるな。」

博雅は皿に盛ってある石榴の実を手に取り、感心したように眺めた。

   「今年は豊作でな。 庭の石榴の木にこれほどの実がついたのは初めてだ。」
晴明はそう言うと酒を口に運んだ。

杯を持つ晴明の手元を見て博雅が驚いたように聞いた。
   「晴明、その指はどうしたのだ?」

博雅が目に留めた晴明の指先には、薬草らしき葉が巻かれている。

   「あぁ。これか。 いやなに、石榴の機嫌を損ねてな。」
それだけ言うと晴明は、部屋の奥に生けてある石榴の枝に目をやった。

   「石榴の機嫌。。? なんだ、それは。」
博雅は訳がわからず、晴明にもっと問いただしたい気持ちだったが、こういう時の晴明はこれ以上聞いても何も答えないという事を知っていた。
博雅は手の中の石榴を眺めて、
   「石榴の機嫌・・・ 石榴の機嫌・・・」
と首を捻るしかなかった。

そこへ先ほど博雅がもって来た梨を盆にのせて、蜜虫がやって来た。食べやすいように皮を剥いて切ってある。

   「晴明さまが石榴の枝ぶりを愛でてらっしゃる折に、棘が指先に刺さったのです。」
梨を二人の前に差し出しながら晴明の代わりに蜜虫が博雅に答えてやった。
晴明はまるで他人事のように庭に目を向け、ひとり杯を空けてゆく。

   「石榴の棘とな。 お前にも隙があるという事か。」
博雅はどこか得意気で愉しい気分になり、晴明の顔を覗き込むように見て酒を飲んだ。

   「それが、思いのほか傷が深くて・・・ 何度も薬草を取り替えているのですが
    益々、悪くなっているようなのです。」
蜜虫が心配そうに顔を曇らせて言った。

それを聞いた博雅はさっきの愉しい気分もどこへやら。
   「おい、晴明。大丈夫なのか?」
今度は真剣な表情になって晴明の顔を見て聞いた。

   「まったく・・お前という奴は・・よくもまあ、それ程までにころころと気が変わるものだな。」
晴明は博雅の問いには答えず、ため息まじりに笑いながら言った。
それを見て、蜜虫も一緒になってくすくすと笑い出す。

   「なんだ! また二人して俺を騙したのだな。」
今度は拗ねた童のように口を尖らせて怒った。
そんな博雅を見て、再び笑い合う晴明と蜜虫。

蜜虫が思い出したように、
   「そうでした。博雅様。 先ほどお持ちいただいた梨は竹篭にいくつ入っておりましたか?」
と、聞いた。

博雅はまだ口を尖らせていたが、蜜虫の問いが意外なものだったせいか、すぐに気を取り直し、
   「梨の数か? 確か五つであった筈だが。」
と、答えた。

   「さようにござりまするか・・・」
解せぬ風に首をかしげる蜜虫を見て、晴明が聞いた。
   「どうした、蜜虫。」

   「はい。私も博雅様から篭を受け取った時には確かに五つあったと思うたのですが・・
    皮を剥く時には四つしかなかったのです。」

蜜虫がそういうと、
   「何? 梨の数が減っていたと? そんな馬鹿な。 蜜虫の思い違いであろう。
    おおかた、途中で落としたに違いない。」
博雅は全く信じられないといった風に、首を振りながら言った。

   「そのようなことはありませぬ! 私も方々探したのですから。
    それに梨が落ちて気付かないなんて・・私は博雅様とは違いまする。」
蜜虫の思わぬ逆襲に合い、博雅は口をパクパクするだけで言い返す言葉が見つからない。

博雅と蜜虫の他愛もない言い争いを呆れ顔で眺めつつ、目の奥に何かを見定めようとする鋭い光をたたえながら晴明は小さく呟いた。
   「四つ・・・四・・・不吉な数だ。」
指先の傷跡に猛烈な熱さを感じながら、晴明は杯の酒を静かに飲んだ。

その時、晴明たちの背後で花器に刺した石榴の枝が、妖しげに鈍く光り揺れているのを誰一人として気付いてはいなかった。


同じ頃、ところ変わって京の都のはずれ。
都にて一仕事終えて、一人の男が家路を急いでいた。
刻はすでに逢魔が時。ぐずぐずしていると鬼に出くわす危険が迫っていた。
もう秋だというのに、何故か男の周りには生暖かい空気が体にまとわりついて気味悪い。

急ぐ男の少し先に橋が見えてきた。あの橋を渡れば、すぐに我が家だ。男の足取りも自然と軽くなる。
男が橋にさしかかった時、下の川原から生臭い匂いが流れて来て男の鼻をついた。
男は思わず立ち止まり、橋の上から目を凝らして川原を覗き見た。
差し迫る暗闇の中で黒光りする物体が小刻みにうごめいているのがかすかに見える。
最初は背中を丸めた人だと、男は思った。
それにしては、その黒い体には衣らしい衣を身につけていない。
くちゃくちゃ、びちびち・・と不気味な音をその黒き体は発している。

   「も、もしやっ!」

男はこの黒い物体が人でない事を悟り、顔から血の気が引くのを感じた。
それと同時にその場から急いで逃げようとした。
しかし、恐怖のため足はぶるぶる震え、体が思うように動かない。
男の気配に気付いたのか、黒い物体が丸めていた背をふっと起こした。
そして、ゆっくりと男のいる橋の上の方を振り向いた。

その顔は体同様、真っ黒だった。
鋭い目だけが異様に赤く光っている。 そして、その口元には・・・
不気味な音を立てて喰ろうていた肉片がこびりつき、周りには真っ赤な血がべっとりとついていた。

   「あわわ・・・」

男は腰を抜かしつつ、命からがらその場から走って逃げた。
幸いなことに、鬼は逃げる男の後を追っては来なかった。
男は夢中で走りながら今見た光景を思い浮かべた。

鬼の手の中にはぐったりした人間の子がいた。
喰ろうていたのは人の子だったのだ。
   「俺はあの鬼の顔を知っているぞ。 都の仏師の所で見たことがある。」
男は仏師の手によって彫られていく、ある仏像を思い出していた。
這這(ほうほう)の体(てい)で家に帰り着いた男は、そのまま寝床に潜り込み朝まで一睡も出来ずに震えて過ごした。


 『陰陽師 吉祥果』 第二章 へつづく





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2008/10/02 11:34:22 PM
コメント(6) | コメントを書く



© Rakuten Group, Inc.
X