1357880 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2008/10/02
XML
カテゴリ:陰陽師大好き♪
 『陰陽師 吉祥果』 第一章
 『陰陽師 吉祥果』 第二章
 『陰陽師 吉祥果』 第三章~1
 『陰陽師 吉祥果』 第三章~2
 『陰陽師 吉祥果』 第四章~1



   「うむむ・・・  それにしても、釈迦如来は何でもご存知なのだな。
    お前の血が稀なるものであることも・・・」

   「ふむ。 魔物にとって俺の血なぞは恰好の獲物。それゆえに常に用心せねばならぬの
    だが・・・」
今回はしくじった。と、晴明は苦笑気味の笑みを浮かべて博雅の顔を見た。

   「では、お前が石榴の棘で血を流さなければ、このような事は起こらなかったというわけか?」

   「まあ・・そういう事になるであろうな。 善栄殿と姫君には、まことにすまぬことをした。
    私のせいでした。と申す訳にもゆかぬしな。だから、釈迦如来に叱られても仕方ないのだ。」

一息おいて、晴明が博雅に冗談まじりにこう言った。
   「しかし、梨の実をもって来たお前にも、半分、罪があるやも知れぬな。」

目を剥いて博雅が勢い込む。
   「何?! この博雅に罪があるというのか!」

横から蜜虫がすかさず、
   「あるのだ。」
と言った。

博雅は鼻の穴を広げながら反論する。
   「それを言うなら、蜜虫、お前にも罪があろう。 梨の実を落としたのはお前だぞ。」

蜜虫は知らぬ顔で
   「ありませぬ。」
と言う。

   「ある。」 「ありませぬ!」 「ある!」
永遠に続くかと思われる二人の言い争いのきっかけを作った晴明は、素知らぬ顔で淡々と酒を口に運んでいる。

結局、博雅が根負けしてむっつりと口をつぐんでしまった。
蜜虫は得意になって、にっこりと笑った。

そんな蜜虫の顔を憎らしく見ながら、博雅は晴明に酒をついでこう言った。
   「それにしても、晴明。 梨の木が吉祥姫を守ってくれて助かったな。 そうでなかったら、
    吉祥姫はどうなっていたか知れぬではないか。」

博雅の言葉に晴明がこっくりと頷いて、杯を受けた。その酒を口元に運びながら晴明がこんな事を言った。 
   「鬼子母神のもうひとつの名前を知っておるか? 博雅。」

   「ああ、聞いた事がある。 異国(とつくに)では、“かりていも”と呼ばれているので
    あろう?」

   「そうだ。 このように書く。」
晴明はそう言うと杯を置き、焼き栗を載せていた紙をするりと抜いて軽く呪を唱えると、酒に小指を浸してその紙にすらすらと字を書いた。
不思議なことに、晴明の小指でなぞった字が、書いたそばから墨色に変わってゆく。
晴明は、書き終えた紙を博雅に見せてやった。

    “ 詞梨帝母 ”

その文字を見て、博雅が言う。
   「ああ、確かにこのような字であった。」

   「この文字の中に隠れているものがあろう?」

   「うん? 何が隠れておるというのだ?」

暫く、博雅は晴明が書いた字を眺めていた。 そして、「あっ!」と、短く声を発して、
   「梨だ! 梨の字がある!」
と、叫んだ。

   「そうなのだ。 鬼子母神の別名である【詞梨帝母】。 善栄殿の庭の梨の木こそが、
    まことの鬼子母神だったともいえるのだ。」

   「どういうことだ?」

   「あの梨の木は姫君と固い絆で結ばれて守護していた。 そして、今度の一件で姫君を
    守ったと同時に童の命も守った。まさしく、童子の守護神、鬼子母神そのものではないか。」

   「なるほど。言われてみれば、そうであるな。 すると、お前がお釈迦様を呼び出す時に
    俺に梨の実を持たせたのは?」

   「まことの鬼子母神の守護を頼むためだ。」

博雅は、網の目のようにいろんな方向に細かく絡み合い繋がっている今回の怪異に舌を巻いた。


   「・・・吉祥姫か・・。」
晴明は感慨深そうにそう呟くと、庭の石榴の木をみて、
   「天界に“吉祥天”という女神がいるのだが・・・ 吉祥天は鬼子母神を母に持つ、
    と言われている。」

   「むむむ・・・」
博雅は何も言えず、腕組みをして黙りこくるしかなかった。

晴明は全てを話し終えると、その場をすっと立ち、邪心の鬼子母神が芽生えた石榴の枝のそばに寄った。

邪な心が消え去った枝は枯れ木のようにやせ細り、生命は果てたと思われる様子を見せていた。

晴明はその枝をもって庭に下り、五芒星の印のある石の上に置いた。
口元に二本の指を立て、もう片方の手の指をパチンと弾きながら、「現出 火精」と呪を唱える。

すると、石榴の枝が自然と火を発し、パチパチと音を立てて燃えてゆく。

   「棘が刺さった時に、こうすべきであった。」
晴明が小さく呟いた。

二人は暫く立ち上る煙を見上げながら、それぞれが今回の出来事について思いを馳せていた。
博雅は葉二を取り出して、そっと口にあてて奏で始めた。

世の中には善もあれば、悪もある。 それは人のみならず、この世に生きとし生けるもの全てにいえる事なのであろう。
今年はあらゆる果実が豊作だという。 数が多ければ、その分、邪心をはらむ数も増えるのだ。
しかし、晴明の背負う運命とはなんと過酷なものであろうか。 何気なく流した血でさえも魔物や鬼が群がる餌となり、邪な心を生み出してしまうのだから。

遠くで夜明けの鳥の啼く声が聴こえる。 ふと見上げると、東の空がうっすらと明るくなってきた。

   「おっ。いつの間にか、夜が明けたようだな。」
それに気づいた博雅が、笛から口を離して言った。

長い夜が明けて新しい朝がやってくる。 全てが新しく生まれ変わるに相応しい朝となるであろう。
吉祥姫しかり、助かった童たちしかり。


   「しまった!」
博雅が突然、大きな叫び声をあげて立ち上がった。

   「博雅さま?」
蜜虫が驚いて声をかける。

   「今日は、帝に新しい管弦の曲をお聴かせする日であった。
    早急に支度せねば、間に合わなくなってしまう。」
博雅は顔面蒼白になって、あたふたしている。

晴明は、
   「急げよ、博雅。俺のところから朝帰りする姿を見られでもすれば、それこそ大事
   (おおごと)だぞ。 巷でどのような噂が流れるかしれたものではない。」
にやり、と意地悪そうに笑って濡れ縁に上がり、
   「俺は・・・ひと寝入りするとしよう。」
と、横になった。

   「おい、晴明。お前も陰陽寮に出仕せねばならぬであろう。 寝ておる場合ではないはず。」

そんな博雅の言葉に、目を閉じたまま晴明は言い返す。
   「俺は陰陽頭(おんみょうのかみ)でもなんでもない。 陰陽師がひとり欠けたところで、
    子細なかろう。 いざとなれば、式神を身代わりとする手もあるしな。」

   「ずるいぞ! 晴明! それならば俺の式神も作ってくれ。」

   「だめだ。 俺の作る式神は笛が吹けぬ。 それでもよいのか? お前の立場が危うくなるぞ。」

その時、二番鶏の啼く声が聴こえた。
   「そら、まもなく陽が昇るぞ。 ゆけ、博雅。」

博雅は、鶏の声を聴いて慌てて駆け出した。
   「ばか晴明!」
去り際に一言、そう残して出てゆく。

晴明は口元に笑みを浮かべ、
   「ふふふ。ゆるせ、博雅。 たとえ式神に笛が吹けたとしても、お前ほどの音色は出せぬのだ。
    お前は稀人(まれびと)だからな。」
そう呟いて、再び目を閉じた。



京の都が朝焼けに染まってゆく。
明るい陽の光を感じて、女は目を覚ました。 三日前に大切な我が子を鬼に喰われた。 子を失ってから、どれだけ泣いたであろうか。 もう、涙も枯れ果てたと思うほど泣き明かした。

女は水を汲みに川へ行こうと、戸口を出た。 その時、何かが戸口にもたれ掛かっているのが目に入った。

   「坊!」
女は我が目を疑った。 鬼に喰われた我が子が、膝を抱えてそこに眠っている。

   「坊や、坊や! 目を開けておくれ。」

童がゆっくりと目をこすりながら声のするほうを見た。
母の顔を見ると、にっこりと微笑んだ。

   「ああ。生きていたんだね!」
我が子を力いっぱい抱きしめて、嬉し涙を流す。

童の手には、梨の実がひとつ大事そうに握られていた。

   《完》



如何でしたでしょうか~? 今回は、はっきり言って余り自信がありません。。
途中から、こんがらがってしまって収拾がつかなくなりました~。

鬼子母神事件が案外、あっさりと解決しちゃって物足らなかったかも。
最後の謎解きに重点を起きすぎたかも知れないですぅ。

また、私なりの解説を「あとがき」として後日、書かせていただきますね。

今日はこのへんで。。さよなら~☆彡






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2008/10/02 11:33:31 PM
コメント(3) | コメントを書く



© Rakuten Group, Inc.
X