ずっと幼い頃、私の頭を洗うのは父の役目だった。
父はいつも、体を洗うのと同じ固形石けんをガシガシと頭皮にすりつけて、泡立てて洗ってくれたものだ。

　物心ついた頃、私はどうしても、この固形石けんの洗髪に我慢がならなくなって来た。
父の乱暴な洗い方に不安を覚えたこともあったけれど、
母からシャンプーとリンスを使うことを教えてもらったからだ。
シャンプーには、大人の香りがした。

　「こんなものなんかより、石けんみたいな単純なものの方が良いに決まってる」
私の頭を洗うのが楽しみだった事もあるのだろう、こんな負け惜しみを言って、父は私の洗髪から手を引く事になった。

　それからも時々、父はシャンプーの洗髪に文句を言った。
私も時々、父の言い分を思い出して、固形石けんで洗髪をしたりもした。
良く考えてみると、私が信奉するシャンプーの使用者である母は、石けん愛用者である父に比べて、はるかに髪が細く少なく、不健康な髪質だった。

　母も偉かったのは、一つには節約の為だったのかも知れないのだけれど、シャンプーを原液で使う事はせずに、必ず空き容器で薄めて使っていた事だ。そういうシャンプーの使い方を教えてもらっていなかったら、まだ子供だった私の髪はどんな事になっていたのやら…

　シャンプーには実は合成洗剤が使われており、石けんの方がはるかに体にも良いらしいという事を私がはっきりと知ったのは、子供を産む頃になってからの事だった。
父の昔の流儀に対する確固たる信念みたいなものが、ある程度私を守ってくれたのだと思うのは、石けんの良さを知ったその頃までも、比較的世の大勢に押し流されることなく、合成シャンプーの原液を毎日頭にふりかけて使うことは、余りしないで過ごしたと思うからだ。

　とは言え、私も思春期の一時期、テレビのコマーシャルに乗せられて、毎日合成シャンプーで洗っていた時期があった。
その時、私の髪に起こった事は…　

以下続く