宮本亜門「ラ・トラヴィアータ」は「椿姫」ではなく『道を誤った女』だった
鑑賞日:2009年2月15日(日)14:00開演入場料:¥2,000 E席5階(L2列8番)主催:(財)東京二期会、(社)日本演奏連盟東京二期会オペラ劇場2009都民芸術フェスティバル助成公演ジュゼッペ・ヴェルディ作曲 「ラ・トラヴィアータ(椿姫)」 (オペラ全3幕 字幕付原語(イタリア語)上演)会場:東京文化会館公演監督: 近藤政伸 指 揮 : アントネッロ・アッレマンディ 演 出 : 宮本亜門 装 置 : 松井るみ 衣 裳 : 朝月真次郎 照 明 : 沢田祐二 振 付 : 上島雪夫 管弦楽 : 東京フィルハーモニー管弦楽団合 唱 : 二期会合唱団出演:ヴィオレッタ : 安藤赴美子 アルフレード : 井ノ上了吏 ジェルモン : 青戸 知 フローラ : 渡邊 史 ガストン子爵 : 高田正人 ドゥフォール男爵: 佐野正一 ドビニー侯爵 : 福山 出 医師グランヴィル: 三戸大久 アンニーナ : 磯地美樹 ジュゼッペ : 橋本大樹 仲介人 : 須山智文感想宮本亜門の手にかかると「椿姫」がどのような作品になるか興味があり、昨日から急に暖かくなり花粉が飛び交う中、上野まで出かけた。演出の特徴としては全て黒を基調にしていること。舞台は正面から見て黒い枠で台形に縁取られ、右側一面が複数の開閉のドア、左側は白黒チェックの壁となり、中央に黒色の台が置かれ机や椅子、ベッドとして使われる。1幕はドアが一斉に開きお客が入り舞踏会となり、2幕1場はライトで色と陰を付け田舎の別荘を表現、2場は一転階段が加わり再び、サロンを表現。そして3幕は暗闇の中にスポットのみで登場人物を浮かび上がらせる。時代設定は服装から現代となるかと思うが、時代不詳とも言える。そして舞踏会のお客は服装だけでなく顔まで黒く塗られ、2幕の踊りも男性ダンサーのみ。ヴィオレッタだけが赤、白、緑のドレスを着ており、浮かび上がって見える。通常の椿姫では舞踏会で華やかな舞台装置となるのだが、ここまで暗い表現となると、自然と注目は音楽の方、更には主役達の内面に向かうことになる。指揮者は昨年新国立の「トゥーランドット」を振ったアッレマンディで譜面台には何も載っていない。1幕後半に木管の乱れや歌手とのずれを感じたが、後半に行くに従って良くなって来て、ヴェルディの重々しい音楽が表現出来ていたと思う。そして何より今回のオペラを成功に導いたのは、ヴィオレッタ役の安藤赴美子の歌声。二期会の中でのオーディションで選ばれたとのことだが、ドラマチックでかつリリコが要求される難役を最後まで美しい響きで歌いきったところ。最期はもう少しPの方が更に涙を誘えたと思ったが、これだけ歌える歌手は稀少。アルフレード役の井ノ上了吏も最初大丈夫かと思われたが、上手く調整し、アリアもそれなりに歌えたと思う。ジェルモン役の青戸知は高音が出る明るめのバリトンであり、役柄としてはもう少し重みのある声の方が良かったのでは(アルフレードの友人かと思ってしまう)。今回、宮本亜門としてはよりヴェルディの音楽を浮かび上がらせるために、余分なものを全て排除したシンプルな舞台を狙ったと思われ、「椿姫」の華やかさではなく、「ラ・トラヴィアータ」=『道を誤った女』の内面表現に重点を置いた、ある意味真っ正面からの試みと言えるでしょう。カーテンコールで宮本亜門が登場しなかったが、前日までのブーイングのためか。当方としては、オペラの奥深さ、表現の広さを再認識することが出来た公演でした。End