沼尻ドラゴンは素晴らしいオペラ・マエストロだ
鑑賞日:2009年3月28日(土)/29日(日)14:00開演入場料:¥3,000 D席3階(12列26番)主催:神奈川県民ホール・びわ湖ホール ・東京二期会・日本オペラ連盟共同制作公演 (財)東京二期会、(社)日本演奏連盟平成20年度文化庁芸術創造活動重点支援事業《舞台芸術共同制作公演》プッチー二作曲歌劇「トゥーランドット」(全3幕・字幕付原語上演)会場:神奈川県民ホール指 揮 : 沼尻竜典演 出 : 粟國 淳合 唱 : びわ湖ホール声楽アンサンブル・二期会合唱団児童合唱: 赤い靴ジュニアコーラス管弦楽 : 神奈川フィルハーモニー管弦楽団出演:トゥーランドット:横山恵子(28日)/並河寿美(29日)カラフ : 水口 聡(28日) /福井 敬(29日)リュー : 木下美穂子(28日) /高橋薫子(29日)ティムール:志村文彦(28日) /佐藤泰弘(29日)皇帝アルトゥム:近藤政伸(28日) /田口興輔(29日)ピ ン : 晴 雅彦(28日) /迎 肇聡(29日)パ ン : 大野光彦(28日) /清水徹太郎(29日)ポ ン : 大槻孝志(28日) /二塚直紀(29日)役 人 : 与那城 敬(28日) /相沢 創(29日)感想若手指揮者で最近人気が高く、びわ湖ホール芸術監督でもある沼尻ドラゴンのオペラが神奈川県民ホールであるとのことでチケットを買おうとしたが、両日の歌手がそれぞれ魅力的で迷った末、結局2日間とも購入(^_^;)。昨年の「ばらの騎士」に続いてびわ湖ホール、神奈川県民ホールと東京二期会の共同制作であり、練習期間やホール利用、舞台装置にもお金が掛けられるメリットがある。また歌手も東京二期会だけでなく、関西二期会やびわ湖ホール、そして藤原歌劇団メンバーまでいて、そこもホール主催のメリットでしょう。演出は粟國安彦の息子である粟國淳。幕が開くとディズニーランドかUSJに出てきそうな大きな歯車が蒸気の力?で回る大きな機械装置が登場。公演ポスターのトゥーランドットと思しき女性の横の複数の歯車の理由が判った。宮殿もさながら宇宙基地の様な外観になっている。プログラムのインタビュー記事によればプッチーニ作曲と同じ時代の映画「メトロポリス」を意識し、ロボットではなく、トゥーランドットや貴族達は不自由ない生活を送っているが食事はこの機械から供給され楽しみ=希望がない世界を表しているとのこと。そのため貴族や役人は肩から胸にパイプが付けられている。王やトゥーランドットは王族らしい衣装だが、役人がナチスドイツ軍的衣装であったり、兵士がSF的だったり、はたまた民衆の方は男女とも中国人民軍のような衣装でこのバラバラ感でおとぎ話の「とってつけたような世界」感らしが、それなりに違和感なく観ることが出来た。1幕のトゥーランドットが瞬間登場する場面では強烈なスポットライトで照らされ、上手く神秘性を表現していた。「トゥーランドット」の演出で問題になるのは3幕リューの死からフィナーレまでの持って行き方。プッチー二自身もリューの死までしか作曲をしていない。今回はリューの死の後、斜幕が下り、その中で照明で浮かび上がったトゥーランドットとカラフ二人だけの歌にすることで、より二人の内面の感情表現とすることで納得性を持たせ、フィナーレの宮殿で民衆の祝福を受ける場面へつなげることが出来たと感じた。カーテンコールで若干の「ブー」が出たが、当方としては十分納得できる演出であり、お年寄り達にはSF的な部分が受け入れられなかったか。2日間の公演で一番良かったのは、何と言っても管弦楽。緊張感ある出だしの管から始まり、3幕フィナーレまで、素晴らしい演奏が持続された。特に1幕月夜の場面や2幕謎解きの場面、3幕冒頭などの静寂場面の弦の響きが神秘的で素晴らしい。途中歌手とのずれを感じた所も少しあったが、ダイナミックレンジの大きさ、小澤征爾ばりの体中を使った指揮で全体を淀むことなく押し進めたのは、沼尻ドラゴンの功績でしょう。2回目のカーテンコールではオーケストラも舞台に登場し一番拍手を受けていた。神奈川フィルはオペラでも在京オケに全く引けを取らない実力になって来たのでしょう。そして合唱もびわ湖ホール声楽アンサンブルと二期会合唱団の合同で迫力があり、オペラを十分に盛り上げていた。歌手の方を2日間比較すると、まずトゥーランドットは横山恵子、並河寿美とも良かった。横山は最後まで冷淡、並河は表情の変化が大きく人間的な印象。カラフの水口聡と福井敬はあまり調子が良くなかったか。高音が多い難役の影響か、歌声が終始少々固すぎる。それでもアリアやトゥーランドットとの二重唱でのハイCは歌えており流石でした。リューは高橋薫子が素晴らしい。澄んだ高弱音の響かせ方は大変上手く、容姿も役にピッタリ。木下美穂子の方は弱音では彼女の声の良さが出ず、容姿も少々立派すぎ。カラフが小柄なためだが、やはり欧米サイズなのでしょう。来年の共同制作公演は「ラ・ボエーム」とのことで、その配役が今から楽しみだ。End