MET-LV「皆殺しの天使」は不条理の世界へ引き込まれる
鑑賞日:2018年1月28日(日)10:00開演入場料:¥3,600 (スクリーン3/J列) 【配給】松竹株式会社METライブビューイング2017-2018シーズン歌劇「皆殺しの天使」トーマス・アデス作曲 全3幕(英語/字幕付)会場:ミッドランドスクエアシネマ指揮:トーマス・アデス演出:トム・ケアンズ管弦楽:メトロポリタン歌劇場管弦楽団合 唱:メトロポリタン歌劇場合唱団出演:レティシア :オードリー・ルーナルシア :アマンダ・エシャラズシルヴィア :サリー・マシューズレオノーラ :アリス・クートフランシスコ:イェスティン・デイヴィーズエドムンド :ジョゼフ・カイザーブランカ :クリスティン・ライスベアトリス :ソフィー・ベヴァン上映時間:2時間42分(休憩1回)MET上演日:2017年11月18日感想: 原作は1962年カンヌ国際映画祭で上映されたルイス・ブニュエル監督による映画。ザルツブルグ音楽祭の委託作品としてトーマス・アデスにより2016年にオペラ初公演され、2017年ROH公演、そして今回METでプレミエとなったもの。 S・グラハムの簡単な作品解説のあと、オケピットのチューニングの音の中にチューブラ・ベルが繰り返し鳴らされ、やがて混沌とした音の洪水の中で突然始まる。 物語はオペラの帰りブルジョア達が、屋敷に集まってパーティーを始めるが、すでに使用人たちは皆出ていって誰もいない。パーティーは翌朝まで続き、何故か誰も帰らない(帰れない)状態に。やがて水や食料が底をついて、何人か死人が出て、最後には・・・。 音楽の方は1幕は、不協和音と大音量の中で、ソプラノは極端な高音を歌い、段々と耳が疲れてくる。このまま続くのは辛いなと思ったところで、2幕は一転オケが静かになる。その中でオンド・マルトノの音が不気味に響き、不条理な世界を表現する。無調性ながらも個々のアリアの旋律は美しく、その世界へ引き込まれていく。途中の打楽器での行進曲は別スタジオから演奏され、多くの小太鼓の連打が加わり緊張感を持たせる。 現代音楽と言ってもただ不協和音や大音量で埋めるだけでなく、オペラ全体での音楽構成が物語に合わせてよく計算されて作られ、演奏されており、作曲者自らが指揮をした効果でしょう。 歌手の方も、これまでの公演の経験者も多く、超高音も自然に歌い、オペラと言うより演劇に近い演出で各役に成りきっている。 新年早々のオペラに相応しいかは置いておいて、おそらく日本では実演を見ることが難しい作品を最高レベルの演奏と演出で見られるのはMETライブビューイングならでは。 レヴァインの体調は心配だが、次回公演はヨンチェヴァ、グリゴーロ、ルチッチによる今シーズン一押しの「トスカ」で機会が合えばぜひ見に行きたい。End