神奈川音楽堂「サイレンス」は実に日本的作品
鑑賞日:2020年01月25(土)14:00開演入場料:5,500円(セット券)(10列) 【主催】(財)神奈川芸術文化財団ボーダーレス室内オペラ川端康成生誕120周年記念作品「サイレンス」原作:川端康成「無言」作曲・台本・指揮:アレクサンドル・デスプラ全1幕(フランス語上演/日本語字幕付)会場:神奈川県立音楽堂台本:アレクサンドル・デスプラ台本・演出・映像:ソルレイ美術・照明:エリック・ソワイエ衣装:ピエールパオロ・ピッチョーリ演奏:アンサンブル・ルシリン出演:富子:ジュディス・ファー(ソプラノ)三田:ロマン・ボックラー(バリトン)語り:ローラン・ストッカー(コメディーフランセーズ)感想: 本公演は同会場で3月公演予定のバロックオペラ「シッラ」とのセット券の先行発売があり、川端康成原作をフランス人が作曲・台本したとのことで、面白そうと合わせて購入したもの。 冬晴れの中、少々汗をかきながら紅葉坂を登り音楽堂へ。13時開場の10分過ぎに到着し、入口前で荷物チェック受けたが、オリンピックも近づき厳戒態勢になっているのでしょう。 ホール内はまだ準備中とのことでロビーで待つことに。人が増え座る場所が無くなり、立って待つ場所も苦労した13時30分にようやくホール開場となった。初めから13時30分開場と記載して欲しいところ。 幕は無く、舞台を前後に横切るように1m程度の衝立が置かれ、その前には白い長方形のシートが敷かれている。 開演時間5分押しで暗転、衝立の後ろへアンサンブル・ルシリンが楽器(フルート、クラリネット、弦楽器、パーカッション)を持って10人が入場。ベージュ系のイスラム的な衣装で無国籍風。音楽の方も、日本の雅楽のような、ドビッシーのような、武満徹のような静かな音楽が全編流れる。 指揮者は舞台上には居らず、舞台下手の袖内で振っており、その映像が客席最前列のモニターに映し出され、それに合わせて歌手や楽器が演奏されていた。 登場人物は富子役ソプラノ、三田役バリトン、語り・タクシー運転手・主人役コメディーフランセーズの3人。川端康成の短編小説「無言」を原作にしており、三田が病気で寝たきりになっている作家の家を訪問し、世話をしている娘の富子との会話、寝たきりで無言の作家への問いかけ、タクシーとの運転手とのやり取りがオペラになっている。 何もない舞台に、和音が繰り返される音楽の中で出演者がゆっくりと椅子などを自ら運び入れ、ゆっくりと語り、歌い始める。その動きは能舞台を思い起こさせる。 更に舞台上面のスクリーンに屋敷前やトンネルの照明など舞台場面に合わせたものであったり、抽象的なものであったり、作家が見ているTV画面が映し出される。60年安保闘争、プロ野球の巨人-阪急の日本シリーズだったり。原作は1953年4月なのでTVがあったかは不明。 最後は、三田がタクシーに乗り有名な逗子のトンネルを通り、その横に幽霊が座っている?との語りで幕。 90分弱の本番演奏の後、帰りかけると、アフタートークがあるとのアナウンスが入り、客席に戻り、作曲・台本・指揮のアレクサンドル・デスプラ氏、台本・演出・音楽監督・ビデオ監督のソルレイ氏、て文芸評論家、鎌倉文学館館長の富岡幸一郎の対談を聞くことが出来た。川端康成初め、両氏の日本の芸術に関する知識の豊富さに驚かされた。 とてもフランス人が作ったと思えない、上辺だけでない、純日本的なオペラ作品。これで歌詞が日本語であれば、更に日本的なところが深まるのか、逆にフランス語のイントネーションが無くなり印象が変わってしまうのか興味あるところ。 このような作品は、日本を外から見ている方が、見えて来る部分もあるのでしょう。 プログラムにも「今後も室内オペラに取組む」と書かれているので神奈川県立音楽堂に期待。End