神奈川県民「浜辺のアインシュタイン」はダンス、朗読、ミニマム音楽の共演で面白い
鑑賞日:2022年10月9日(日)13:30開演入場料:4,000円(C席 3階11列)【主催】神奈川県民ホール(指定管理者:(財)神奈川芸術文化財団)神奈川県民ホール開館50周年記念オペラシリーズVol.1オペラ「浜辺のアインシュタイン」フィリップス・グラス作曲ロバート・ウィルソン初演演出全4幕(歌詞:原語、台詞:日本語上演)会場:神奈川県民ホール 大ホール原作音 楽 :フィリップス・グラス台 詞 :クリストファー・ノウルズ、サミュエル・ジョンソン、ルシンダ・チャイルズ翻 訳 :鴻巣友季子 スタッフ演出・振付:平原慎太郎指揮 :キハラ良尚演出補 :桐山知也空間デザイン:木津潤平衣 裳 :ミラ・エック(Mylla Ek)照 明 :櫛田晃代音響デザイナー:佐藤日出夫映 像 :栗山聡之ヘアスタイリスト:芝田貴之メイク :谷口ユリエプロダクション・マネージャー:横沢紅太郎舞台監督 :藤田有紀彦 山口英峰音響アソシエート・デザイナー:西田祐子衣装補助 :柿野彩電子オルガンアドバイザー:有馬純寿演出助手 :日置浩輔振付助手 :田﨑真菜コレペティトゥア:石野真穂 矢田信子副指揮 :森田真喜ステージマネージャー:根本孝史ライブラリアン:塚本由香出演メッセンジャー:松雪泰子トラベラー :田中要次プライド :中村祥子ヴァイオリン :辻󠄀彩奈電子オルガン :中野翔太、高橋ドレミフルート:(マグナムトリオ)多久潤一朗、神田勇哉、梶原一紘バスクラリネット:亀居優斗サクソフォン :本堂誠、西村魁合 唱 :東京混声合唱団ダンサー:Rion Watley、青柳潤、池上たっくん、市場俊生、大西彩瑛、 大森弥子、倉元奎哉、小松睦、佐藤琢哉、東海林靖志、 杉森仁胡、鈴木夢生、シュミッツ茂仁香、城俊彦、高岡沙綾、 高橋真帆、田中真夏、鳥羽絢美、浜田純平、林田海里、 町田妙子、村井玲美、山本悠貴、渡辺はるか感想 毎年行われる神奈川県民ホール主催のオペラが今年はミニマム音楽の作曲家フィリップス・グラスの「浜辺のアインシュタイン」を上演するとのことで、CSでごった返す横浜スタジアム周辺を抜けて、山下公園沿いの神奈川県民ホールへ出掛けた。 フィリップス・グラスと言えばメトロポリタン歌劇場のライブビューイングでオペラ「アクナーテン」が公開されたミニマル音楽の巨匠。本作品は4幕設定だが、今回2部構成で1,2幕と3、4幕は連続で演奏されその間に休憩が入いる。当初5時間予定と書かれていたが、一部繰り返しを省略し、休憩入れ4時間になっていた。 客席に着くと幕は上がっており、舞台上には上下一杯に階段が置かれ、数段毎に2~3m程の踊り場が設けられている。舞台前には上下に黒い張り出し舞台があり、挟まれる所に楽器、合唱が並ぶ。開演5分前に着席したが、すでに電子オルガンの低音の繰り返しが演奏され、舞台上にはダンサー2人が居てモップと台車で清掃中の状況。 開演時間となり客席暗転で指揮者登場。指揮者の前に液晶モニターが置かれ、そこに「#1」と表示され曲が進むとNoが増え♭が付いたりする。鏡の演出で同じNoが写っており、舞台上にもモニターが設置されていることが分かった。通常のオペラなら音楽を聞いて舞台の出入り、演技の入等が分かるが、ミニマム音楽は繰り返しばかりなので聞き分けることは困難で、予め音楽にNoを振って演奏者、演技者へ表示しているのでしょう。 舞台上は20人を超えるダンサーが、演技を行う。音楽に合わせて上手から下手、下手から上手へ踊りながら通り抜けたり、複数の集団を作りダンスを行う。1部では少女、少年と両親の家族が観ている情景があり、2部最後は、大友克洋氏作画のポスターの様に少年がヴァイオリンを持って舞台中央に後ろ向きに立ち、その後ろから少女が観ている情景で幕(暗転)。 メッセンジャー役の松雪泰子は黒の衣装で裁判官として舞台に登場し、大きな動きはなく、台詞を喋りながら稼働式のテーブルを押し舞台を左右に動く。トラベラー役の田中要次朗は大きなトランクを持ち帽子を被った旅行者の姿で舞台前下手の張り出し舞台の上ベンチに座り、時に立ち上がって語る。前半音響の関係で田中要次朗の台詞が聞き取りにくかった。 演奏は主に電子オルガン中心で、曲によって、他の楽器、混声合唱16人が加わる。合唱は一人ひとりマイクが設けられ、「ドレミ・・・」や「1,2,3・・・」や単語を歌い、通常オペラのようなアリアや歌詞は全くない。途中合唱のみのアカペラ部分ではエコーも加えられていた。2部後半にヴォカリーズがあり、下手張り出しの舞台上でソプラノ1人で歌われた。プログラムに個人プロフィール紹介は無かったが素晴らしい歌声だった。 ヴァイオリンの辻󠄀彩奈は1部では上手張り出し舞台でシルバーの衣装で演奏、2部では赤い鮮やかな衣装で舞台上でダンサーに囲まれて演奏。 ミニマム音楽なので繰り返しが重なるが、その中にも変拍子が入ったり、転調したりと変化があり、また電子オルガンはシンセサイザーの音も加わり、プログレッシブ・ロックにも聞こえ、眠る事なく最後まで楽しむことが出来た。本作品は1976年初演なので、プログレッシブ・ロックとの関係も頷ける。 題名の「浜辺のアインシュタイン」の意味は、原子爆弾にも関連した天才物理学者との関係らしい。1976年と言えばようやくベトナム戦争が終わり、東西冷戦時代に突入し、より核兵器が身近になっていた時代。現在ウクライナ侵略戦争で再び核兵器が身近になっている。残念ながらその意味合いを直接感じることは出来なかったが、ダンス、朗読、音楽の融合で楽しめれば良いかなと。 観客席は1階左右は空席多く、中央はほぼ満席、3階席はC席部分は満席で全体としては6~7割程度か。また通常のオペラと異なり、年配者は少なく、若者、女性が多く観られた。 神奈川県民ホールは、一柳慧氏が理事、芸術総監督を長らく務められ、他の地方ホールはもちろん、東京でも観られないような独自の音楽公演を主催されて来たが、先日逝去されたとのことで誠に残念。 本日のプログラムと同封のチラシにサルヴァトーレ・シャリーノ作曲「ローエングリン」の現代オペラ公演を2024年度開催とのこと。 ぜひ、ホール独自のオペラ公演を続けて頂くことに期待。End