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カテゴリ:うふふ日記
3月3日の朝だった。
母から電話がかかる。あー。 ——まずい、まずい。 「ま・ず・い」が、胸のなかに響く。谺(こだま)する。 「お、おはよう、ございます」 と云うなり、わたしは「ほんとに、ごめんなさい」をくり返していた。 何が「ま・ず・い」かと云ったら、ひな人形のことである。ことし、実家のひな人形を、わたしは飾りに行かなかった。節分の翌日から、ときどき、「行かなくちゃ」と思った。思っては忘れ、忘れては思いだし……、結局、忘れた。忘れることに、した、のかな。 年老いた母とわたしは、あと幾度ともにひな人形を飾ることができるだろうかという、儚(はかな)いお互いである、今生では。それは想像に過ぎないが……。 想像に過ぎないにしても、母とふたりで、密(ひそ)やかに守ってきたひな人形のことを、忘れていいはずはなかった。 「ほんとに、ごめんなさい」 「ほんとに、ごめんなさい」 受話器の向こうから母の声が聞こえる。「ほんとに……」とまた云おうとするわたしの耳に聞こえてくる母の声は、さびし気なものではなく、むしろ……、むしろ得意げなのだった。 「あなたが忙しいのはわかってたから、ことしは、お内裏さまだけピアノの上に飾ったのよ。片づけるのも、あわてることないからさ、ゆっくり見にきてね。ばいばい」 電話が切れたあと、ゆっくりたどり直してわかったのは、つぎの事実であった。 当てにならぬ娘など待たず、七段飾りの(段段の組み立ては、とくに手がかかる)ひな人形のお内裏さまだけを、木箱から出して飾ったのだ。 へへん。そうだ、母(85歳)にしたら、父(90歳)にしたら、「へへん」というほどの出来事だ。 しかしなんという快挙。 勝手ながら、讃えるべき出来事である。 3月4日の朝だった。 長女からメールが届いた。 写真つきのメールで、それを開くと、おいしそうなご馳走がならんでいた。 ・五目寿司。 ・きゃべつと舞茸の汁もの。 ・菜ものと油揚げの煮浸し。 ・れんこん、にんじん、ごぼうのきんぴら。 ・新玉ねぎのサラダ。 ・トマトとモッツァレラチーズのサラダ。 ・生ハム。 友人たちとのたのしいひな祭りであったらしい。 「あらためて、お雛さま、飾りに来てくれてありがとう*。最初、お内裏さまは怒ってるような顔をしていたのだけど、つぎの日見たら少し穏やかになってました。しょうがないからここにいるか、って感じでしょうか。とりあえず、そんなひな祭りでした。ありがとう」 * 三女が長女の家にお雛さまを届け、飾ってくれた。 ゼリーのことですが……。 最近わかったことがあります。 ゼリーをうちでもっともたくさん食べていたのは 長女だったという事実です。 ゼリーをこしらえても、長女が独立したいま、 かつてのようには「びゅんびゅん」なくならないのです。 気がつくと、わたしは持ち運びに具合のいい容器を 10個(写真左)をもとめていました(写真右は耐熱ガラス製)。 届ける当てもないのに、 きょうも、持ち運びゼリーを5個 つくっていました。 あはは。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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