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profile:山本ふみこ
随筆家。1958年北海道生まれ。つれあいと娘3人との5人暮らし。ふだんの生活をさりげなく描いたエッセイで読者の支持を集める。著書に『片づけたがり』 『おいしい くふう たのしい くふう 』、『こぎれい、こざっぱり』、『人づきあい学習帖』、『親がしてやれることなんて、ほんの少し』(ともにオレンジページ)、『家族のさじかげん』(家の光協会)など。

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2014/03/11
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カテゴリ:うふふ日記
 3月3日の朝だった。
母から電話がかかる。あー。
 ——まずい、まずい。
 「ま・ず・い」が、胸のなかに響く。谺(こだま)する。
 「お、おはよう、ございます」
 と云うなり、わたしは「ほんとに、ごめんなさい」をくり返していた。
 何が「ま・ず・い」かと云ったら、ひな人形のことである。ことし、実家のひな人形を、わたしは飾りに行かなかった。節分の翌日から、ときどき、「行かなくちゃ」と思った。思っては忘れ、忘れては思いだし……、結局、忘れた。忘れることに、した、のかな。
 年老いた母とわたしは、あと幾度ともにひな人形を飾ることができるだろうかという、儚(はかな)いお互いである、今生では。それは想像に過ぎないが……。
 想像に過ぎないにしても、母とふたりで、密(ひそ)やかに守ってきたひな人形のことを、忘れていいはずはなかった。
 「ほんとに、ごめんなさい」
 「ほんとに、ごめんなさい」
 受話器の向こうから母の声が聞こえる。「ほんとに……」とまた云おうとするわたしの耳に聞こえてくる母の声は、さびし気なものではなく、むしろ……、むしろ得意げなのだった。
 「あなたが忙しいのはわかってたから、ことしは、お内裏さまだけピアノの上に飾ったのよ。片づけるのも、あわてることないからさ、ゆっくり見にきてね。ばいばい」
 電話が切れたあと、ゆっくりたどり直してわかったのは、つぎの事実であった。
 当てにならぬ娘など待たず、七段飾りの(段段の組み立ては、とくに手がかかる)ひな人形のお内裏さまだけを、木箱から出して飾ったのだ。
 へへん。そうだ、母(85歳)にしたら、父(90歳)にしたら、「へへん」というほどの出来事だ。
 しかしなんという快挙。
 勝手ながら、讃えるべき出来事である。
 
 3月4日の朝だった。
 長女からメールが届いた。
 写真つきのメールで、それを開くと、おいしそうなご馳走がならんでいた。
・五目寿司。
・きゃべつと舞茸の汁もの。
・菜ものと油揚げの煮浸し。
・れんこん、にんじん、ごぼうのきんぴら。
・新玉ねぎのサラダ。
・トマトとモッツァレラチーズのサラダ。
・生ハム。
友人たちとのたのしいひな祭りであったらしい。
 「あらためて、お雛さま、飾りに来てくれてありがとう。最初、お内裏さまは怒ってるような顔をしていたのだけど、つぎの日見たら少し穏やかになってました。しょうがないからここにいるか、って感じでしょうか。とりあえず、そんなひな祭りでした。ありがとう」
* 三女が長女の家にお雛さまを届け、飾ってくれた。

ブログゼリー2種.jpg
ゼリーのことですが……。
最近わかったことがあります。
ゼリーをうちでもっともたくさん食べていたのは
長女だったという事実です。
ゼリーをこしらえても、長女が独立したいま、
かつてのようには「びゅんびゅん」なくならないのです。
気がつくと、わたしは持ち運びに具合のいい容器を
10個(写真左)をもとめていました(写真右は耐熱ガラス製)。
届ける当てもないのに、
きょうも、持ち運びゼリーを5個
つくっていました。
あはは。







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最終更新日  2014/03/11 09:51:14 AM
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