「運気」
あんなに人手不足に悩んでいたこの整骨院だったのが今は、人材獲得に走り回る必要がなくなった。募集を掛けなくとも人が来る。しかも、即戦力になってくれそうな「人財」が。弱音を吐いたり、突然辞めるスタッフもいない。当たり前の事なのかもしれないが私たちにとっては、それが当たり前ではなかった。何度も何度も募集を掛けては面接を繰り返し「とにかく人手」と、やたらな採用の仕方をしていた私たち。当然、サービスの質は落ち、患者様からのクレームが出る。志に関係なく雇ったスタッフ達は、早々に辞めていった。スタッフトレーニングに費やした時間も虚しく研修期間を経ずに多くのスタッフがリタイヤしていく。重苦しい空気と残されたスタッフの疲労だけが増していった。「溺れるものは藁をも掴む」それでもまた、その場しのぎの募集と採用を繰り返す…。私たちは愚かだった。募集に掛かった費用と治療デビューを果たさず辞めていくスタッフの給料ばかりが止め処なく流れ出て行った。それが。もし、運気というものがあるとしてこの整骨院にそれを見るときっと、底近くを這っていた線が右肩上がりのカーブを描いているのではないだろうか。年を越してから、目に見えて運気が変わったように思う。非常勤だった頑張り屋さんスタッフが常勤となりかつて院長の修行先で同僚だった、有能な彼がスタッフに加わり新たに元気な女性スタッフの採用が続いた。面接の対応にも余裕を持って、先を見越した結果を出せるようになってきた。…本当に必要な人材なのかどうか。そして今日、更にもう一人。かつての院長の修行先の先生から、「お世話になりたい」との申し出が。仕事の出来る院長より3つ年上の男性。必死で探している時には掴めなかった「人財」ギリギリの毎日だった去年が嘘のようだ。この波が、荒れることなくこのまま穏やかに流れて欲しい。どうか、このままゆっくりと。