カテゴリ:妄想天国
「何、それ?」
和哉が仕事から帰ると、リビングのテーブルの上には見慣れないものがあった。 正座をして、真剣な顔でそれらに向う秀を覗き込んで声をかけると、秀はその中の一枚を差し出した。 「『無病息災』?」 「もうすぐ七夕だろ。商店街で買い物したら、おまけでくれたんだ」 笹も商店街にあるらしく、書いたら飾りにいかなきゃ、と秀は張り切っていた。 「母の実家でよく飾ってたんだ。本当は筆ペンじゃなくて、サトイモの葉に溜まった朝露をすって墨汁を作るんだけどね。包装紙を切って天の川を作ったり、折り紙で鎖をつくったり」 何年ぶりだろ? と嬉しそうに話す秀に、何も書いていない短冊と筆ペンを差し出され、和哉もスーツの上着を脱いで隣に座った。 「でも、去年はこんなことしないだろ」 近くの商店街で、毎年やっているイベントのはずだった。去年はやっていた覚えはないのに、なんで急に…と和哉は聞いた。 「未華に子供ができたから」 すらすらと書いた短冊の一枚を、また和哉に見せる。 『未華が無事出産できますように』 「安産祈願のお守りも買ったけどさ。他に何かしたくて。僕にはこのくらいしかできないから。『子供が生まれるからたくさんください』って言ったらいっぱいくれた」 ちょっと自慢そうに言う秀に、和哉は恨めしそうな目を向ける。 「……ここしばらく、未華さんのことばかりですよね。少しは他に願うことはないんですか?」 「ないな」 秀は間髪いれずに言い返したが、すっと後ろの手で何かを隠した。ちょっと赤い顔といい、何かあると和哉が気づかないはずがない。 そのことを知りながら、ふぅ…とわざと大きなため息をついた。 「そう。もしかして、俺より未華さんの方が大事なんじゃないのか?」 ちょっと気落ちした声でそう呟くと、秀は慌てて「そんなことは…」と反論した。 うろたえているその隙をついて、和哉は背後に隠したそれを素早く奪い取った。 「あっ! ダメ、返してっ」 秀に背を向けて、和哉はその短冊をじっくりと眺める。 他の短冊より線の細い字で書かれたそれ見て、目の奥が熱くなった。 何か欲しいとか、どこか行きたいとか、そんな願いごとなら叶えてあげるつもりだった。けれど、そこにあったのは―――。 『この幸せがずっと続きますように』 こんなこと願ってもいいのかな、という気弱な秀の気持ちが、細い字に表れていた。 短冊を取り返そうと肩越しに伸ばされていた手が、ギュッと和哉のシャツを掴んだ。 「見るなよ、恥ずかしい」 ふて腐れたような声が、本当に愛しくて。 背中にすがっていた手をそっと前まで引き寄せて、壊れ物を持つように両手で包み込んだ。 秀の身体がピッタリと和哉の背中に張り付く。 ドキドキと早鐘を打つ鼓動が、どちらのものかわからないくらい近くにいた。 「一緒に、もっと幸せになりましょう」 「…うん」 身体を捻る苦しい体勢も気にならず、秀と和哉は穏やかなキスを交わした。 相変わらずラブラブだわ~。 こんなお話のつもりじゃなかったんだけどなぁ…。 「七夕企画」ということで、他のカップルでも書きたいなと思ってます。 もうすぐ七夕ですね。 もう子供じゃないので、朝露集めて短冊作るなんてことはやってませんが、 子供ながらに楽しかったのを覚えてます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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