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ちょうど二人の休日が合った次の日、秀と和哉は二人で商店街へ出かけた。
願い事を書いた短冊を飾って、その後久しぶりに一緒に映画でも見に行こうという話になっていた。 「あら。秀ちゃん、おはよう。聞いたわよ~、おめでとう」 「よぉ、兄ちゃん。おめでとうよ。お祝いに鯛でもどうだい。安くしとくよ~」 和哉は始めて商店街での秀の人気を知った。 道行く先々でお店の人たちに声をかけられ、秀はそれに笑顔で応えていた。 普段深夜帰宅の和哉と違い、秀はいつも会社帰りにこの商店街で買い物をして帰っているので、顔なじみになっているらしい。 それはそれでいいことなんだろうが…。 「ちょっと面白くないな」 「ん? 和哉、なんか言った?」 笹に短冊を飾り終えた秀が振り返って、不思議そうな顔をした。 「いや、いつの間にか商店街の人気者になってるんだなっと思って」 「知り合いになると、いろいろおまけしてくれるんだよ」 妙に現実的なことを言われて、和哉は面食らった。 「そう…なのか」 「そうそう。新鮮で安い、いい食材があるしね。まぁ、ちょっと口が悪かったりするけど」 はは、と笑いながら八百屋の前を歩いていると、店の中にいたオヤジが大声で秀を呼んだ。 「兄ちゃん、兄ちゃん。聞いたぜ、子供が生まれんだってな。めでたいじゃねぇか」 またお祝いを言われて、秀は嬉しそうに「ありがとうございます」とお礼を言ったが、次の言葉に凍りついた。 「その若さで父親になるたぁ大変だな」 もちろんその後ろにいた和哉もピタッと固まってしまった。 短冊をもらうときに言った『子供が生まれるので』ということを、どうやら勘違いされてしまったらしい。 「いえ、あの…」 訂正しようとする秀の横から、隣の金物屋の親父が割ってはいる。 「キレーな兄ちゃんの嫁さんはどんな人だろうなって、話してたんだぜ」 「そうそう。そんな細腰で女を悦ばしてるのかなんて、想像できねーって」 ガハハハハと笑うオヤジ連中に、和哉は引きつりそうになる口元を必死で押しとどめなければならなかった。 『ちょっと口が悪い』なんてものじゃない。 「なに言ってんだい、あんたっ」 他の客を相手していた八百屋のおばちゃんが気づいて、オヤジを叱り飛ばした。 慌てて首をすくめるオヤジを押しのけ、おばちゃんは「ごめんね」と秀に謝った。 「ホント、口が悪くて。お詫びとお祝いにコレ、持ってって」 ゴロンと大きなカボチャを差し出された。 おばちゃんの勢いに押されっぱなしの秀は、慌てて手を差し伸べる。 「あと、ほらこれとこれと、これも。奥さんにしっかり食べてもらって、元気のいい赤ちゃんを産んでもらわないとねっ」 ずっしりと重い形のいいカボチャの上に、他にも野菜や果物を乗せられ、秀はもう勘違いを否定するタイミングを失ってしまったようだ。 嫉妬深い和哉は、うろたえている秀の背中をじっと見つめた。 たとえ誤解だろうと、秀に奥さんがいるなんて耐えられない。 予定を変更して商店街から直帰することにした和哉は、今日一日をベッドの中で過ごすとに決めた。 たとえ、どんなに幸せでも、和哉の嫉妬深さは変わらない、というお話。 結局甘いお話だわ。 もっとこう…サスペンスなお話書きたいなぁ~。 ………無理だけど。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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