カテゴリ:妄想天国
今年も楽風呂な季節がやってきました!
とうとう通販開始です~。 通販開始を記念して、「1文字足りない」のSSでも、どうぞ ※ ※ ※ ※ 「ちょっと、もうやめときなさいよ」 握っていたチューハイのグラスを奪われて、瀬良京介は飲み屋の畳にありがちな、タバコの焦げ跡を数えていた視線を上げた。 とある理由で無表情が標準装備となった京介の顔は、いつもどおり変わりがないように見えた。しかし、どこか焦点がはっきりしない目と真っ赤な顔。そして何より微妙に身体が傾いているので、京介が泥酔しているとわかる。 「何も芝くんが今日お隣さんと呑んでるからって、張り合って飲みに来なくてもよかったんじゃない?」 取り上げたグラスを京介の手の届かないところへ置いた蘭が、呆れたようにそう言った。 蘭は、京介の同僚であり友人であり、そして恋の相談相手でもある。 長年片思いを続けている義弟の芝東眞のことを、蘭にだけは打ち明けていた。 「だって、呑みに行く友人もいないのかと思われたくない…」 「友人少ないものね、瀬良は。でも、そんなの今さらじゃない。出会って10年以上経ってれば、バレてるわよそんなこと」 それでも見栄くらい張ってもいいだろ、と京介は無言で右手を出した。 「酒」 「いい加減にしときなさい」 パシッと掌におしぼりを叩きつけられた。 しばらくじっとそれを見つめていた京介だったが、そのうちにおしぼりの袋を破って広げ、水滴でぬれたテーブルを拭きだした。 「そこら辺の女よりも、京介は気が利くわね。きっと、いい奥さんになれるわよ? 芝くんに『もらって』ってお願いすれば?」 冗談であろう蘭の言葉に、京介の動きがピタリと止まった。 奥さんになんてなれるわけない、と京介は、据わった目でじっと蘭を見つめた。その無言の非難をものともせず、蘭は悠々とジョッキのビールを飲み干した。 京介の唇がかすかに尖る。 その顔を見て、蘭が楽しげに笑いながら煙草を一本取り出した。しかし、咥えた煙草は京介の次の一言で畳に落ちることとなった。 「小人になりたい」 幸い火がついていなかったので、京介が数えていた畳の焦げ跡が増えることはなかった。 「小人になれば東眞の部屋に住みたい放題…」 最近一番の願い事を、夢見てうっとりと呟くと、立てかけてあったメニュー表で頭をはたかれた。 「何バカ言ってんのよ」 「バカってなんだよ、俺は本気だぞ」 「あー、わかったわかった。本気のバカってことが」 「バカにすんなっ。人間一心に願えば何でも叶うんだからな!」 そんなことあるわけないじゃない、という蘭の冷静な一言に、いきり立っていた京介がみるみるうちに萎れた。 「だよな…、願っても叶わないことばっかりだ」 今度はイジイジと畳をむしり出した。 「ホントあんたと呑むと面倒くさいわね。そんなバカげた願い事よりも他にあるでしょ」 「ないよ、他なんて。小人になれたら何にもいらない……」 プチプチという音が、だんだんと間隔が開いてゆっくりになってきた。蘭が訝しげに京介を見ると、今にも瞼が閉じそうになっている。 「ちょっと、こんなところで寝ないでよ?」 「うん、寝ない寝ない。ちょっと横になるだけ」 「世間一般では、それを寝るって言うのよ! ……あー、もういいわ、引き取りに来てもらうから」 「んー、だ…れに?」 「小人になって住む家の家主によ」 「ん」 ならいいや、と小さく頷くと、本格的な睡魔が襲ってきた。 抗いきれず、闇に落ちていく京介の耳に、蘭が「バカの回収にきてー」とどこかに電話をしている声が届いた。 ※ ※ ※ 「1文字足りない」 あらすじ 小人になりたい。小人になったら、こっそり彼の部屋に住める。そんな不毛な妄想を抱くのは、滅多に表情を出さない、担当の冷蔵庫並みに涼やかな印象の瀬良京介。密かに想う義父の連れ子である芝東眞は、客にも人気が高く、営業成績ナンバーワンのくせに、生活能力は皆無だった。そんな東眞の傍にいるために、京介は兄という立場にしがみついた。本当は、四六時中一緒にいて、肌に触れて、世話を焼きたいのに! 義兄弟のちょっぴり切ない十年愛 今回の私のお話です~。 他にもたくさんの魅力的なお話が詰まった一冊。 通販はこちらから ↓ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
|
|