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本編「1文字足りない」 ・芝東眞…明るく元気な家電担当者。京介とは義兄弟。 ずーっと前から京介を狙い、弟とう立場を利用して甘え倒して独占してきた。 ・瀬良京介…無表情で世話好きな家電担当者。天然でニブイ。 東眞の世話をすることを生きがいとしている。 「小人になったら、東眞の部屋に住める」という願望を抱いていた。 寝起きがよくない東眞は、何度かまばたきをして状況を把握しようとした。 しかし、どう考えてもよくわからない。目の前にあるのは一体何なのだろう? と目を細めて焦点を合わせようとした。 近すぎてぼやけてしまうが、それは人の形をしているように見えた。 「東眞、眠い?」 それはさらに近付き、目にかかっている髪を持ち上げた。 そう、持ち上げたのだ。「よいしょ」という掛け声とともに、両手で髪の毛を。 細めていた目が、驚きに見開かれる。そのまん丸の目の前に、小さな手が差し出された。 小さな…といっても子供のように『小さな』という意味ではない。本当に小さくて、そう―――まるで小人サイズの手だった。 「トリックオアトリート」 枕のすぐ横に立った小さなそれは、東眞にそう言った。 あぁ、ハロウィンのお決まりの文句だ、と言葉の意味はちゃんとわかる。しかし、東眞はまだ事態が飲み込めず、茫然としていた。 「あ、近すぎると見えないんだっけ?」 小人はそう言って2、3歩後ろに下がった。 その距離に納得したのか、うん、とひとつ頷くと、さっきと同じポーズをした。 「今日ハロウィンなんだ。だから、『トリックオアトリート』!」 「………」 2度目にも反応しない東眞に、その小人はキュッと眉を寄せた。 不機嫌になったときのクセ。 そんなクセまでそっくりな小人は―――どうみても、東眞の兄であり恋人になった京介だった。 「お菓子くれないなら、悪戯しちゃうよ?」 寝起きで予想を超えた事態に東眞の頭は、未だに動いてくれない。何も言えない東眞に、ちび京介が再び近寄ってきた。何をするのかと茫然と見ていると、東眞の鼻の頭に、ちび京介がちゅっと口づける。 か、可愛いっ。 がばっとベッドから飛び起きた東眞は、叫びそうな口を片手で押えた。 「う、わぁっ」 ベッドが振動し、立っていたちび京介はバランスが取れなくて、シーツの上に倒れこんでしまった。 「京介さんっ」 慌てて拾いあげると、手の中にちんまりと納まった。 改めて見ると本当に小さい。身長が16、7センチほどだろうか。10分の1サイズに縮小されてしまったようだ。 「びっくりした」 「あぁ、ホントにびっくり……」 京介があの願いを叶えて小人になってしまうなんて。 「東眞?」 黙り込んだ東眞を心配して、手の中のチビ京介が両手を伸ばしてくる。 「どっか痛い? 具合悪い?」 心配に顔を曇らせるチビ京介の可愛さに、東眞の口元は緩みっぱなしになってしまう。 「いたずら、さっきので終り?」 「そ…うだよ。ダメ?」 「じゃ、お返し『トリックオアトリート』」 「え?」 まさか言い返されるとは思わなかったんだろう。手のひらの上で、きょとんと東眞を見上げる。 「お菓子くれないと悪戯しちゃうぞ」 「あ…、待って!」 ちび京介は手から飛び降りると、ベッドサイドに走って行った。途中、足元の柔らかさやシーツのしわに足を取られてよろよろと転びそうになる様も可愛らしい。 ちび京介は辿り着いたベッドサイドのチェストから、何かを引っ張り出した。 「はい、お菓子!」 取り出したのは、赤いマントに黄色い顔。 見慣れたそれは、今日子供たちに配りまくった、我らが『ムトデンくん』のクッキーだった。 よいしょ、とまた掛け声をかけながら、ちび京介はムトデンくんを立てた。 ほぼ同じ大きさのムトデンくんクッキーの横に並んで、どこか誇らしげな顔をするちび京介を可愛いと思いつつ、東眞は少しガッカリした。 どんな悪戯しようか、と思っていたのに、まさかお菓子が用意してあるとは思わなかった。 こっそりため息をつく東眞に向かって、ちび京介はムトデンくんクッキーを持ち上げて差し出した。 「東眞、あーん」 その一言に、落胆していた東眞は復活した。 邪魔者に乱入されて果たせなかった『あーん』をやってくれるらしい。 「あーん」 にやけた顔を隠そうともせず、東眞は大きく口を開けて甘いクッキーを待った。 「―――ま、と…ま。東眞っ!」 京介の声にビクッと身体が震えた。 「やっと起きた。ハロウィンのイベントで疲れたからって、こんなところで寝ると風邪ひくよ? もうすぐご飯になるから、お風呂でも入ってくれば?」 そう言って覗きこんでくるのは、いつもの『京介』だった。 「……夢……か?」 ソファから起き上がって辺りを見回すが、そこは自分の家のリビングだった。ベッドの上をちまちま走っていたはずのちび京介はどこにもいない。 本物が目の前にいるのだから当たり前なのだが、ちょっと残念だったと思わずにはいられなかった。 周囲を見回していた東眞の目が、テーブルに置かれた皿の上に、頭やマントが欠けたムトデンくんクッキーを見つけた。 今日のハロウィンイベントで配ったクッキーの失敗作を引き取ってきたのだ。 「………京介さん、『あーん』」 東眞は、大きく口を開けて京介に向ける。 イベント後、「あーんして」と強請り倒して、ようやく頷いてもらえたのに、邪魔者が乱入してきて結局してもらえなかった。 その邪魔者には、今後報復するとして、とりあえず京介に『あーん』してもらわなきゃ納得できない。 「だ、だめ…」 「どうして? ここなら誰も邪魔しない」 「でも、恥ずかしいよ」 よっぽど見られたことが恥ずかしかったのか、眉間にしわを寄せた京介が、首を縦に振ってくれそうな気配はない。 じっと見つめると、赤い顔した京介は居心地悪そうに水色のエプロンを押さえて後ずさった。 「ま、まだ…夕飯の用意の途中だから―――」 珍しく東眞の言いたいことがわかったのだろうか。逃げたそうにしている京介に、東眞は「じゃ、黒いエプロンして」と強請った。 「っ!!」 真っ赤になった京介は、慌ててキッチンへと逃げてしまった。 「ガードが堅くなった気がする…。蘭さんの入れ知恵かな、それとも―――早川が邪魔したせいかな」 ソファにゴロリと寝転びながら、キッチンを眺める。 立ち働く京介の後姿を見ながら、「服が邪魔なんだよなー」と不満げに小さく呟いた。 それが聞こえたのか、ビクッと京介の身体が強張り、ガチャンという何かが割れる音が聞こえた。 「京介?!」 東眞は慌ててソファから飛び起きた。 END ※ ※ ※ ハロウィンストーリー! 邪魔されてしまった「あーん」の場面は『ムトベ電機へようこそ~秋~』に収録されてます。 通販で是非ゲットしてください! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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