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「恋愛の意味がわからん」
隣の席に座る友人の弥智から吐き出される、甘ったるい惚気話を聞き流していた俺は、ポツリと呟いてしまった。 弥智のノロケは長い。長い上に不毛だ。 きっと、1ヶ月後には愚痴を聞かされ、そのまた1ヶ月後には違う恋人の惚気を聞かされることになる。 だから俺も、弥智を挟んでその隣に座る友人の光圀も、酒を飲みながら適当に聞き流すのが習慣になっている。 それなのに、なんでこんなにコイツは幸せそうなんだ? と思ったら、ついさっきの言葉が口をついて出てしまった。 弥智が惚気をピタリと止め、信じられないという驚愕の表情で聞き返した。 「………意味?」 光圀は、涼やかな目に面白そうな色をたたえていた。 「あぁ、なぜ恋愛しなければならないのか、サッパリわからん。結婚なら、一応納得できるんだがな。結婚すれば、家賃も光熱費も半分で済む。いや、女性は養ってもらえるからタダになるのか…」 その分家事をするという新たな仕事が付加される。それはどちらが得なんだろうか、真剣に悩んでいると、立ち直った友人が叫んだ。 「間違ってる。激しく間違ってるぞ、お前!」 恋愛体質の弥智には、我慢できない発言だったらしい。わざわざ持っていた酒をテーブルに戻してまで、俺の肩を掴んだ。 「そんな味気ない理由で結婚するわけないだろ?!」 ラブに決まってんだろー! と酔いに任せて大声で叫ぶ友人に困惑しながら、肩に置かれた手を外す。 希望を言えば、一つ席をずらして他人のふりをしてしまいたいところだが、いまさらそれは無理だった。 年下の顔見知りのマスターが苦笑しているのを見て、軽く頭を下げて謝った。 しかし、そんな俺の配慮も無駄にするように、白熱した弥智がさらに叫んだ。 「好きなら一緒にいたいと思うだろ!!」 「…一緒にいてどうするんだ?」 「そりゃ遊びに行ったり、映画見たり」 「一人でも十分楽しめる」 「あとは、抱き合ったり?」 「なぜ?」 「―――愛しいと思ったら抱きたいだろっ」 そう言われて以前恋人がいた時代のことを思い出すが、そんな熱い感情はなかったような気がした。そもそも、流されるままに付き合うことが多く、恋愛に向いていないと自覚してからは恋人を作るのも面倒になった。 返事をせずに、グラスに残っていたウィスキーを呷った。 氷が解けて随分と薄くなっている。それが、まるで自分の感情のようだと思うと、自嘲の笑みが浮かぶ。 「性欲ないのか、お前はっ」 「性欲を満たすだけに付き合うなら、何も恋愛しなくてもいいだろ?」 ぐ、と弥智が言葉を詰まらせる。 世の中には『セッ クスフレンド』なる即物的かつ画期的な言葉もあるくらいだ。 「まぁ、それも面倒だけど」 「枯れてる…、35にしてもう老人か!」 俺と弥智とのやり取りを無言で聞いていた光圀が、とうとう噴き出した。 「北威は枯れてるんじゃないよ」 じゃぁ、なんだよ? という俺と弥智の視線を受け止めて、光圀はゆったりと笑って一言。 「ロマンチストなんだよ」 ろまんちすと。 似合わない単語に、俺も弥智も顔を見合わせた後、その言葉を聞かなかったことにした。 無視された自分の発言を心外だとばかりに、眉を上げるがそれ以上「北威ロマンチスト説」を押そうとしなかった。 「とにかく、―――恋愛に意味なんて求めるな」 追求されても答えられない弥智が、そう言ってこの話題を締めくくった。 そうか、やっぱり恋愛に意味なんてないんだな…。 ※ ※ ※ 男3人が寄り集まってワイワイと騒ぐのを書くのは結構スキ。 無駄話ばかり書いて、脱線しまくり…なんてこともよくあるな~。 つい冒頭が浮かんだので書いたこのお話は、続きます! 北威のお話から、きっちり3人書いてやろうじゃないの!! と、奮起したのは実はお誕生日だから。 ………私の。 一つ大きくなった記念に、きっちりかっちり書きあげてやろうと気合を入れました。 が、楽風呂のムトデンのSSが先♪ 北威のお話はそこそこプロットが立っているので、そのうちきっと更新します! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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